翻訳のヒント[バックナンバー]

2019年4月 翻訳のヒント(英訳)- 英語は日本語よりロジカル

 読んで容易に理解できる和文(特許明細書)を英語にする際、日本語に比べ正確なロジックが必要となることがあります。弊社2017年10月のヒント「化学分野における単数複数」、2016年10月のヒント「概念vs具体物」の両方に関連する英訳のケースに遭遇しましたので、その和文(少し簡略化しました)紹介します。英訳する場合の問題点を探してみてください。

(原文)
 本発明の重合性化合物はRXC=CH(Rは炭素数3以上のアルキル基を表し、Xは式Iで表される基)で表される化合物である。・・・・
 本発明ポリマーは、同一又は異なる本発明の重合性化合物をモノマーとしてなるポリマーである。・・・・・
 当該ポリマーは、本発明の重合性化合物を、炭化水素溶媒中で接触させることにより、当該重合性化合物同士を重合させて製造することができる。

(英訳について)
 今回は第3文の「当該ポリマーは、・・・」を取り上げます。

 この文に関しては、「当該重合性化合物同士を」という点がキーとなります。もともと「重合性化合物」という概念同士を接触させることはできません。実際に接触させるのは同一又は異なる重合性化合物の分子(又は種)同士である、と解釈するのが合理的です。従って、原文どおりの訳:

  The polymer may be produced by bringing the polymerizable compounds of the present invention into contact with one another in a hydrocarbon solvent, to thereby polymerize the compounds.

ではなくて、

  The polymer may be produced by bringing molecules of the polymerizable compound of the present invention into contact with one another in a hydrocarbon solvent, to thereby polymerize the compound.

とすれば、技術内容はもとより英語としても辻褄が合ってくれます。

 修正訳においては、molecules という言葉が加わっていますが、この語はこの発明の本質に何らの影響をもたらすものではないだけでなく、これが加わったことで逆に技術的、論理的に明確になります。

 上の例は、和文原稿そのまま読んでも当業者なら十分理解できる反面、英語のロジックに合わせるには、訳語の属性(概念、具体物等)を上手く処理するための工夫(即ち、翻訳テクニック)が必要とされる例であるといえます。無論クライアントに訳に関するコメントは必要ですが、原文の意図を変えない範囲でより論理的な英訳を心がけましょう。



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