2022年7月 翻訳のヒント(英訳) - 「停電」 の訳
猛暑が続いています。こんな中、何かの理由で停電でもしてしまったらエアコンも扇風機も冷蔵庫も使えず大変なことになります。蛇が変電所の施設に入り込みその一帯が停電した、というニュースもありました(蛇は黒焦げになっていたそうです)。そういう事例は珍事としてニュースにもなりますが、ついうっかり、電気ケトルと電子レンジなどを同時に使い、契約アンペア数をオーバーしてしまったことでブレーカーが落ちてしまうことがあります。今回はそのようなときの「停電」の表現についてです。次の和文を訳してください。
● うっかりIH調理器と電子レンジを同時につけたため停電してしまった。
生徒訳(不適切訳): I carelessly turned on both the IH cooker and microwave oven at the same time, so I had a blackout. |
この生徒訳では「停電」を “blackout” としています。
例えば「ジーニアス和英辞典」(電子辞書版)で「停電」を引くと最初に記載されている語は blackout です。次に(electric) power failure そして3番目に power cut (電力の供給停止)と続きます。そこで何の疑問もなく“blackout” を選択したのではないかと思われます。
そして実際、英語の native speaker であっても、一軒の家における「停電」について “We had a blackout last night.” といったりします。
しかしこの “blackout” という語は元来、今回のコラムの冒頭に書いた、蛇が変電所施設に入り込んだことなどによって付近一帯が一斉に停電した状態を言います。つまり、エリア全体の停電に使う語であって、一つの建物だけの問題については、少なくとも正式な文書において “blackout” を使うのは適切ではありません。
上の例題では、明らかに契約アンペア数をオーバーしたことでブレーカーが落ちた(或いはヒューズを使っている古い家屋の場合には「ヒューズが飛んだ」)状態ですので、the breaker goes out とか、blow a fuse 等が適切です。よって、次のように修正できます。
- I carelessly turned on both the IH cooker and microwave oven, so the breaker went out. |
いま都会ではヒューズを使っている家はないと思いますが、もし田舎の実家などでヒューズが飛んだというのであれば、次のようになります。
- I blew a fuse, because I turned on both the IH cooker and microwave oven. |
なお「停電」は、今回の例のように原因がいわゆる電気の使い過ぎであることがはっきりしている場合だけとは限りません。むしろ、当初は原因不明であることが多い事象です。そういうときに一般的に使える「停電」の英語としては次の表現がありますので参考にしてください。
- power outage - power failure - power goes out - power is cut - electricity fails - electricity goes out |
さらに、“blackout” が出てきたついでに付記しますと、この語は、「報道規制」や「検閲」のほか、「意識喪失」の状態を指すときにも使う語ですので、この機会に辞書にあたってもう一度整理しておきましょう。
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