翻訳のヒント[バックナンバー]

2022年2月 翻訳のヒント(英訳) - 「見出しとの呼吸」

 特許明細書は、背景技術、解決すべき課題、課題の解決手段等、定められた順番でストーリーのように書かれます(弊社翻訳のヒント2018年10月参照)。組成物の発明であれば各成分の詳細な説明や例示が「実施形態」相当の段落に記載されます。

 今回は、見出しと、これに続く本文のより論理的で読みやすい組み立てを検討するため、次の原文についての英訳2例を比較してみます。

(発明の詳細な説明についての原文)
成分B
 本化粧料組成物において、成分Bの多価アルコールは保湿剤として機能し、具体例としてはエチレングリコール、グリセロール、ポリビニルアルコールが挙げられる。


(英訳例1)
Ingredient B
 Specific examples of the polyhydric alcohol of ingredient B, which serves as a moisturizer in the cosmetic composition, include ethylene glycol, glycerol, and polyvinyl alcohol.

(英訳例2)
Ingredient B
 The polyhydric alcohol of ingredient B contained in the cosmetic composition serves as a moisturizer. Specific examples of the polyhydric alcohol include ethylene glycol, glycerol, and polyvinyl alcohol.

 英訳例1、2共に原文の言葉は漏れなく訳されています。ここで、原文に示した段落の明細書上の目的は、「成分B」の素性を説明した上で、具体例を紹介することです。その点から見れば、英訳例1は「Bの例示」の紹介が主たる構成で、文頭の Specific examples がやや唐突に感じます。英訳例2は「成分Bの説明が始まる」、「Bの役割とは」、「Bの具体例は」という自然な話の流れで構成される点で段落の目的により適うはずです。

 見出しは当該段落の目的を表しますので、本文はそれに呼応することが読者フレンドリーです。つまり、「呼吸が合っている」ことが大切です。翻訳例1、2の間に大差を感じないと思われる方は、見出しと本文や、前の文(段落)と次の文(段落)間の「呼吸(具体的には文頭の選択)」を意識してみてください。少しの気遣いで翻訳全体の流れがより良くなり、読者にわかりやすい翻訳となると思います。



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