翻訳のヒント[バックナンバー]

2022年1月 翻訳のヒント(和訳) - “can” の訳し方

 今回は、特許明細書に頻出する「曲者」助動詞、can と may のうち、まず私たち日本人が理解しやすい “can” について実際の例文を見ながらどう和訳すべきか、復習します。

 特許明細書で使われる助動詞 “can” の意味は大別して次の3つです。

①「~できる」という、能力があることを表す意味。

 例1 His dream was to invent a machine that can travel through time.
 次のような受動態の文もこのタイプです。
 例2 All the answers can be found in my videos.

②「~すること(場合)がある」、「~でありうる」という、或る事柄が起きる可能性を表す意味。

 例) Anybody can make mistakes.

③「~してもよい」という、許可を表す意味。

 例) You can use my car, if you like.

 中でも①や②の場合が多いと考えられますので、これら2つをしっかり区別できればおおよそ問題ないと思われます。

 これに対して “may” は、原著者の意図またはニュアンスを汲み取る必要があり、上のように単純にはいきませんので、また別の機会にしたいと思います。

 ただ、“can” と“may” のニュアンスの違いについて悩んだ場合に知っておくと便利なことが一つあります。それは、両方とも可能性を表すが、“can” は話者・著者が思う「実績などの根拠に基づく」可能性、あるいは「理論上」の可能性であり、“may” の方は話者・著者の推量なので主観的な可能性であるということです。

 次に、実際の英文明細書に出てきた表現を見てみましょう。

 Face masks can1) be used to provide respiratory gases to a user under positive pressure.

……(略)……

 The pressure can2) be a source of discomfort and, in some circumstances, can3) lead to pressure sores over time. Looser fitting headgear may provide greater patient comfort, but air leakage can4) occur. In particular, loose fitting and in some cases even tight fitting masks can5) leak air around the portion of the mask near the user’s tear ducts and nasal bridge.

 1):これは受動態の文章で、①に該当します。

 2), 3), 4), 5):これらは②の使い方で、「となることがある」、「することがある」の意味です。2) について例にとると、”The pressure can2) be a source of discomfort” の訳は、「圧力は不快感のもととなることができる」(can⇒能力)という訳ではなく、「圧力は不快感のもととなることがある」(can⇒可能性)などとしましょう。

 なお、”Looser fitting headgear may provide greater patient comfort,” においては ”may” が使われていますが、これは、2), 3) が使われている前文と対照させて考えるとなぜ ”can” でなくて “may” なのか理解できます。つまり、前文から読み取れることは、使用者の訴えなどから、pressure(圧力)が不快感をもたらすことは、100%でないにしろ起こることが客観的に確認されていることだと理解できます。一方、そのあとの文では、著者は「緩いヘッドギアであれば患者にとっては快適であろう」、と推量していることが ”may” によってわかります。


 英語の助動詞は非常に奥が深いので、英訳中心で翻訳をなさる方も、極力よい英文をたくさん読み、感覚を磨くようにしてください。



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