2021年12月 翻訳のヒント(和訳) - 「 lactate をどう訳しますか?」
ある英文明細書で生体試料の分析結果に lactate (mmol/L)との記載がありました。"lactate" のように "-ate" で終わる物質名の和訳としては、「~イオン」や「~塩」、「~エステル」などがあり、どれを選んで良いか迷う方もいるかと思います。その選択は、基本的には翻訳対象の化学的素性(化学種)によるわけですが、場面に応じたカタカナや漢字のチョイスや、原文における定義のされ方なども考慮する必要があります(弊社翻訳のヒント2019年6月、2016年6月もご参照ください)。今回は lactate を例にとり、候補訳語(1~4)の成り立ちについて解説し、どのように使い分けるかを説明します。1.lactate の実態がイオンの場合は、「乳酸イオン(乳酸アニオン)」
2.lactate の実態が塩の場合は、「乳酸塩」
3.lactate の実態がエステルの場合は、「乳酸エステル」
4.lactate の実態が特定できない場合は、ラクテート(ラクタート)
結論として、これら候補からの選択には、lactate の実態を把握できる化学的知識が必要ですので、自信がない方は専門分野の方にご相談ください。その場合でも翻訳者は、同じ綴りの lactate に対する意味は1対1でなく複数存在することを知っておくことが大切です。
今回の明細書のケースでは、lactate をラクテート(ラクタート)と訳しました。当該明細書によれば、血液試料中の lactate レベル(濃度)を話題にしていましたので、水性媒体に不溶な乳酸エステル(3)は除外できそうでした。次に、試料中の lactate はほぼアニオンとして存在しているはずですが、明細書に具体的な記載がなかったため、lactate が乳酸アニオン(1)であるか乳酸塩(2)であるかを確実に決定できませんでした。ここで(1)か(2)に決めてしまうと、lactate を過剰に限定してしまう可能性がありました。従って、(4)を採用するに至りました。
尚、今回の lactate の話は、他のカルボン酸(carboxylic acid)についての carboxylate、例えば酢酸についての acetate 等にも拡張できることは言うまでもありません。また、ハロゲン化物の chloride 等は "-ate" でなく "-ide" で終わる名称ですが、上の(1)、(2)及び(4)と同様な考え方が適用できます。
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