2021年9月 翻訳のヒント(和訳) - rejection, objection, requirement
審査制度のある外国の特許庁に特許出願を行うと、多くの場合、日本と同様、審査官からの拒絶理由通知を受けることになります。もちろん、出願後の最初の公式通知 (office action, official action) が「特許を許可する」といううれしい決定である場合もありますが、公知技術の文献を引用されて、例えば「貴発明は新規性を欠き、加えて自明であるので出願を拒絶する」などの通知を受けることが普通です。今月は、外国特許庁からのこのような公式通知に頻出する特許用語として、まず rejection と objection を取り上げ、その違いをざっくりまとめてみます。
なお、今回の記事の内容は特許翻訳の初心者向けですので、法律用語としての厳密さよりも平易さを優先した記載になっておりますこと、ご了承下さい。また、今回は米国特許庁の公式通知(以下、オフィスアクションと記載)におけるこれらの語の意味について説明するものです。英語を公用語とする国・地域であっても rejection、objection という語に関して米国と多少異なる使い方をするところもありますのでご注意ください。
まず、rejection、objection の実際の使用例を米国特許庁のオフィスアクションの最初の部分にある ”Office Action Summary” から拾ってみます。この中の ”Disposition of Claims” という見出しの下に、定型文言として次の記載があります。
□ Claim(s) ______ is/are allowed. □ Claim(s) ______ is/are rejected. □ Claim(s) ______ is/are objected to. |
アンダーラインの所には実際のクレーム番号がタイプされ、□の所にはチェックマークが入ります。
上において 全クレームが “allowed” である場合を除き、大抵の場合、いくつかのクレームが “rejected”、あるいは “objected to” とされます。どういう理由で “rejected” なのか、あるいは “objected to” なのかについては、オフィスアクションの2ページ目以降に、例えば “Claim 1 is rejected under 35 U.S.C. 112(b), second paragraph. as being indefinite for failing to particularly point out and distinctly claim the subjected matter which …” とか “Claim 3 - 6 are objected to as being dependent upon a rejected base claim, …” のように記載されます。
では、rejected / rejection と objected to / objection はどのように違い、どのように使い分けられているのでしょうか?
答えは、勘のいい方でしたらすぐ上の例から気がつくかもしれません。つまり、rejection (日本語訳は「拒絶」が普通です)は、クレームに直接関係した、そのクレームの「拒絶」(=特許を与えない)です。審査官がクレームを拒絶するためには、特許法の何条に違反しているかを明確にする必要がありますので、上の例のように “rejected under 35 U.S.C. 112(b)” とか、“rejected under 35 U.S.C. 103” のように、条文が引用されます。なお、35 U.S.C. (= Title 35 of the United States Code”:合衆国法典第35編) とは米国特許法のことです。
一方、objection は日本語では「形式拒絶」や「方式拒絶」とも訳され、クレーム発明の実体に直接関係しない事項に関するものです。例えば上の例(“Claim 3 - 6 are objected to as being dependent upon a rejected base claim, …”)では、クレーム3~6が、新規性なし或いは自明であるとの理由で拒絶とされたクレーム1の従属クレームである場合、従属先クレーム(即ち、どのクレームの従属項か)を変更し、許可されている(あるいは許可されうる)クレームに従属させる補正を行えばこれらクレーム3~6も許可される、というものです。即ち、これらクレームに記載された発明実体に特許性(新規性や非自明性)の欠如があるわけでなく、どのクレームに従属させるか、という形式面が修正されれば許可できる場合にこの objection が発せられます。
なお、日本の出願手続きでは拒絶されるのは「出願」ですが、米国では個々の「クレーム(=請求項)」です。つまり、日本では「出願を拒絶する」と言いますが、米国では「クレームXXを拒絶する」と通知されます。
最後に requirement(日本語訳は「要求」)についてですが、紙面が残り少なくなりましたのでごく簡単に紹介します。一般には requirement は、審査官からの指令(要求、要請)であって rejection, objection 以外のもの、と覚えておくと良いでしょう。どういうものがあるかというと、よくあるのは restriction requirement(限定要求)や election requirement(選択要求)で、例えば、オフィスアクション冒頭の “Office Action Summary” 中の ”Disposition of Claims” という見出しの下に、次の定番フレーズがあることに気づくでしょう。
□ Claim(s) ______ are subjected to restriction and / or election requirement. |
今日はこのくらいにしておき、機会がありましたらこの requirement についてもう少し詳しく触れてみたいと思います。
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