2021年6月 翻訳のヒント(英訳) - 「~法」の訳に注意
今回は「~法」と言っても「法律」の話ではなく、科学技術的な「方法」、「技法」の話題です。科学者により発見された現象や開発された技法は、生産の現場でも利用されています。例えば、半導体膜成長の分野での分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy)や化学気相成長(chemical vapor deposition)などです。これらの名称は、それ自体が「技法」を意味するのですが、「現象」と解釈されずに「方法」であることを明確化する目的で、特に特許明細書においては「分子線エピタキシー法」や「化学気相成長法」のように「法」を付加して記載されることがよくあります。これらを英訳する際の「法」の扱いについて確認しておきましょう。
1.「法」は訳さない。
上述の「法」はフラグ的な役割で付加されており、「法」を入れずとも技法としての意味は十分明確なので、原文に「法」が存在しても英語に含める必要はありません。例えば、
GaAs thin film was grown through (又はby) molecular beam epitaxy (MBE). An alumina coating layer was formed through (又はby) chemical vapor deposition (CVD). |
のような英文において「分子線エピタキシー法」や「化学気相成長法」が表現されます。技術を理解できる当業者には誤解も無いはずです。
2.「法」を訳す場合は。
1のケース以外に、クライアントの要求や明細書の諸事情から「法」を訳すこともあり得ます。この「法」に対する英語としては、process、method、technique 等が当てはまり、技法の英語名との相性などを考慮して選択されます。しかし、これら一般名詞を付加する場合には冠詞に注意が必要です。例えば、特許分野で、特に新規特徴を有する化学気相成長法を意図したいときの初出は無冠詞の a novel chemical vapor deposition (CVD) process になると思われますし、これを受ける「本発明の化学気相成長法」であれば定冠詞の the chemical vapor deposition (CVD) process of the present invention となります。この例の他、「法」の不定冠詞・定冠詞は色々な状況で選択されますので、その都度注意して判断してください。
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