2021年1月 翻訳のヒント(英訳) - コロケーションを意識しよう
皆さんはコロケーション(collocation)という単語を知っていますか?駆け出し翻訳者には耳慣れない言葉かもしれませんが、翻訳者(特に英訳者)でしたら当然知っていなければならないことですので、今回はこれをテーマにしたいと思います。コロケーションを大辞泉で引くと、「2つ以上の単語の慣用的なつながり。連語関係。」と出てきます。英語の collocation を英和辞典で引くと、並置、配列の他、言語学用語として「連語(関係)」などと出てきます。また、ODE (Oxford Dictionary of English) では、”the habitual juxtaposition of a particular word with another word or words with a frequency greater than chance” と定義されています。
「連語関係」というのもわかりにくいかもしれませんが、要するに2つ以上の単語からなる定番表現、ということです。これはどんな言語にもあり、英語だけのものではありません。例えば、上のパラグラフに「英和辞典で引くと、」と書きましたが、「辞典」や「辞書」で調べることを「辞典を引く」、「辞書を引く」と言いますね。よく考えると「引く」というのも変ですが、私たちは皆、これが普通の日本語表現だと思っています。
別の例では、「嘘をつく」というのもそうです。「嘘を言う」でも構わないのですが、嘘を言うことを普通は「嘘をつく」といいます。「嘘を立てる」とか、「嘘を刺す」とは決して言いません。また、聞こうとして注意を集中することは「耳」と「澄ます」の二語の組み合わせで「耳を澄ます」と言い、「耳を集める」とは言いません。
さて、今回皆さんとシェアしたいのは、明細書の英訳チェックの際に実際に遭遇した次の例です。
| 例 - 「... 酸化スズを使用する場合、~~ 上記した白金族金属の揮発という問題が顕著になる。」 |
これに対し、訳文は次のようになっていました。
(原訳) ...the above-mentioned problem of volatilization of the platinum group metal becomes remarkable.
ここでまず、「白金族金属の揮発の問題」は本発明においては望ましくないことであり、できるだけ避けたいことであることを前提としてください。
そういう望ましくないネガティブな事象、即ち ”problem” に対し、”remarkable” という単語は合うでしょうか?
“remarkable” は英英辞典では ‘remarkable’ applies to something so extraordinary or exceptional as to invite comment などと定義されています。中には、形容詞として良いことにも悪いことにも使えるニュートラルな語であると考えている方もいるかとは思いますが、実際の使用例ではほぼ例外なく素晴らしいことを表現するときに使われています。
そこで、上の英文例を修正したいのですが、「問題が顕著になる」を皆さんならどう訳しますか?「問題」は problem でいいとして、「顕著になる」というところの訳を工夫する必要があります。
文構造全体を変える修正もあるかとは思いますが、なるべく元の英文の形を保ったままとするために、コロケーションの観点から “the problem becomes” などに続く表現例をサーチしてみると良いと思います。
その結果、次のような表現例が出てきました。
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1) The problem is going to get worse. 2) The problem becomes acute. 3) The problem becomes clear. 4) The problem becomes more serious. 5) The problem becomes more apparent. |
もう少し前後の文脈を見なくてはいけませんが、とりあえず、2), 4), 5) あたりはどうでしょうか?
英訳の際は常にコロケーションを意識し、単語と単語の定番(=普通)の組み合わせから外れていないかを確認する習慣を身につけましょう。
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