2020年11月 翻訳のヒント(英訳) - 明細書と図面の関係
今回も初心者向けです。日本の明細書の「発明を実施するための形態」の項目の冒頭によくみられる文章に、次のようなものがあります。
- 以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。 - 以下、本発明の×××の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。 - 以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。 - 以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。 |
ある翻訳者はこのように訳していました。
The present invention will be described in detail with reference to the following drawings.
この訳文は、英文単体としてみたときには全く問題ありません。しかし特許明細書の訳文であることを考えると問題があります。どこがおかしいのでしょうか?
答えは ”the following ~” を使用しているところにあります。
”the following ~” と表現すると、図面がこの明細書の後の方に出てくる、言い換えると、図面は明細書の一部と認識していることになります。
確かに広義では一般に願書、要約書、図面の一式を「明細書」と呼ぶことも多いのですが、正しくは、明細書は発明を記述したものであり、図面そのものは明細書の一部ではありません。なお、「図面の簡単な説明」の見出しの下に書かれている内容は記述した文章ですので明細書の一部です。
それでは ”the following ~” の代わりにどう表現すればいいのでしょうか?
一般的には ”the attached drawings” や ”the accompanying drawings” を用います。
一方、なぜこの訳者が ”the following ~” を使ってしまったかを想像してみると、和文の冒頭に「以下、」という表現があるため、これに引きずられたのかとも思われます。しかし、この「以下」は「以下の図面」という意味ではなく、「以下、説明する」という意味で、「説明する」にかかります。
ちょっとしたことですが、特許明細書に関する基礎知識を疑われないよう、気を付けたいものです。
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