翻訳のヒント[バックナンバー]

2020年4月 翻訳のヒント(英訳・和訳) - 感染

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの一刻も早い収束を願うばかりです。これに関する英語の記事を見ることも多くなりますので、今回は翻訳の観点から「感染(症)」を整理したいと思います。

1.感染 infection vs. contagion

 infection は語源的には in(中に)と fect(to make)からなりますので、「体内に入って作用する」イメージです。従って、感染のうち主に「空気感染(場合によっては水媒体感染)」を意味します。一方、contagioncon(共に)と tagion(to touch)に語源があることからわかるように、接触を介した感染を意味します。つまり、感染経路が特定された用語です。感染経路が不明で感染源(ウイルス等)のみがわかる場合には infection を使うほうが安全でしょう。

2.可算名詞と不可算名詞

 上の例では「感染」という概念や現象に対応する不可算名詞の英語を示しましたが、これらは可算名詞としても使われます。例えば infection の場合、infections としても使われます。この場合、感染という概念ではなく具体的な「感染者」や「ある感染のタイプ」を表しますので、和訳の場合、注意しましょう。contagion についても同様です。

例)many infections(多数の感染者)、the number of infections(感染者数)、airborn and waterborn infections(空気感染及び水系感染)


3.用語の妥当性

 これらの用語の使い分けは、経験豊富な医薬翻訳者には常識のはずです。しかし、そうでない翻訳者は、word-for-word の用語集に頼りがちですが、それだけでは適切な翻訳となりません。これを回避するためには、標準化された用語集を使うことも一助となります。
 一例として、用語集 MedDRA(Medical Dictionary for Regulatory Activities)があります。これは、医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議(ICH)が開発提供しており、国際的に標準化された特異性の高い医薬品等の用語集です。Website は多言語対応ですので、「感染」以外にも必要な場合には参照してみると良いと思います。

 最後に、手洗い、マスク、人混みを避ける等、油断なく行動してCOVID-19を予防しましょう。



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