翻訳のヒント[バックナンバー]

2018年10月 翻訳のヒント(英訳)- 川の流れのように

 特許明細書は、背景技術、解決すべき課題、課題の解決手段等、一連のストーリーに沿って書かれています。ですから、個々の段落が正しく訳されているだけでなく、段落同士の繋がりが大切です。各段落が川のように流れていると、読者(特に審査官)にはとても親切です。今回は、ある明細書の背景技術の数段落の英訳例(原文、訳文一部省略)を見て、改善すべき点を探ります。文頭と冠詞の使い方がカギです。

・原文
背景技術
[0002]
 例えばヘッドランプ等の照明器具では、LEDからの青色光を蛍光体を用いて白色に変換している。・・・・・

[0003]
 最近、光源の高出力化に伴い、蛍光体はセラミックタイプが使用されている。・・・・

[0004]
 蛍光体としてはガーネット酸化物型のセラミック蛍光体が知られている。・・・・


・流れが良くない英訳例
Background Art

[0002]
         For example, a head lamp or a lighting apparatus generally includes a device for achieving white light through wavelength conversion of blue light emitted from an LED, by use of a phosphor. ⋅⋅⋅⋅

[0003]
         In a recent trend of using a high-output light source, ceramic phosphors are used. ⋅⋅⋅⋅

[0004]
         Known ceramic phosphors are formed of a garnet-type oxide. ⋅⋅⋅⋅


 段落 [0002] の文頭の For example は唐突です。読者はいきなり「何の例?」かと迷います。For example は先行する記述(段落)があって初めて意味があるので、最初の段落の文頭にはふさわしくありません。段落 [0003] の「蛍光体」は段落 [0002] の照明器具で用いられる「蛍光体」であるはずですが、この関連が英訳文に見出せません。段落 [0004] の「蛍光体」は段落 [0003] のセラミック蛍光体の具体例であるところ、やはり関連性が見出せません。これらの点を修正してみます。

・流れを改善した英訳例
Background Art

[0002]
         In lighting apparatuses such as head lamps, white light is achieved through wavelength conversion of blue light emitted from an LED, by use of a phosphor. ⋅⋅⋅⋅

[0003]
         In a recent trend of using a high-output light source, a ceramic phosphor is employed in such apparatuses.⋅⋅⋅⋅

[0004]
         Among ceramic phosphors, a garnet-type oxide is known as the phosphor used in the art. ⋅⋅⋅⋅


 文頭に不定冠詞があると、読者は「新しい別な情報」と認知するものです。今回は、キーワードである phosphor について、不定冠詞で提示した phosphor を定冠詞の phosphor で受け、段落間の関連を明確にし、更に文頭に手を加えました。このような少しの工夫で読みやすい翻訳となります。



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過去の翻訳のヒント
その他関連項目