翻訳のヒント[バックナンバー]

2018年8月 翻訳のヒント (スペシャルトピック) - (続)発音の大切さ

 2年前の弊社翻訳のヒント(2016年8月)で原子番号133の新元素 nihonium の発音を話題にしました。この元素はあまり頻繁に話題となることはないものの、英語の発音については2年前の予想通り「ニホウニァム」が主流となっているようです(本トピックでは、発音記号でなく、簡便法としてカタカナで記載します)。

 英語の発音が得意な方なら英綴りがわかれば、そこから対象の語を正しく発音できましょう。カタカナしかわからなくても、英語の綴りさえ推定できれば、ほぼ正しく発音できることでしょう。しかし、科学者の名前など固有名詞は、カタカナ読みや英語式発音だけに頼っていると当該科学者の出身地などで全く理解してもらえない(通じない)ことがあります。今回は著名な化学者二人を例として挙げます。

1.Louis Camille Maillard(フランス人)

 食品の褐変現象でお馴染みのアミノカルボニル反応の一種にMaillard反応がありますが、日本では普通「メイラード反応」と呼ばれ広く認知されています。人名「メイラード」はフランス語を英語読みしたもので、英語圏では理解されます。しかし、本来のフランス語をカタカナに置き換えると「マヤール」となり、フランス語圏ではこちらの方が通じやすいです。

2.Stanislao Cannizzaro(イタリア人)

 カニツァーロ反応で有名な Cannizzaro ですが、少々複雑なイタリア語綴りです。しかもアクセントが ni の音節あるので、イタリア語の発音としては「カン・ニッツァーロ」と聞こえます。日本語式の平板アクセントで発音すると通じにくいです。


 上の2例に限らず、この種の事はよくあります。海外や外国人とのやりとりでも、スマホを見せれば(更に自動音声発生を使えば)簡単にコミュニケーションできる時代ですが、本来の発音(特に地名など)ができれば一層スムースな意思疎通ができます。皆さんご自身の翻訳に関連する固有名詞について、少し気にしてみると、猛暑の最中の疲れた頭に良い刺激となるかもしれません。川柳に「ギョエテとはオレのことかとゲーテ(Göthe)言い」というのがありますが、ゲーテもあの世できっと地球温暖化に驚いてギョエっとしていることでしょう。



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