翻訳のヒント[バックナンバー]

2018年1月 翻訳のヒント(英訳)-「が」は常に逆接というわけではない

 「が」は常に逆接というわけではない、ということは日本人でしたら誰でも理解していることだと思います。

しかし、特許翻訳歴約5年の日本人翻訳者(仮に山田さんとします)による明細書英訳の中に、次のような訳文を見つけました。

(原和文明細書)
本発明に用いる(A)成分のグリセリン誘導体は上の式(1)で表わされるものである、20℃で液状のものが好ましい。

(山田さんの訳)
Although the glycerol derivatives of component (A) used in the present invention are represented by the above formula (1), preferred ones are those which are liquid at 20°C.


いかがでしょうか? ” although ” ではおかしいと気づきましたでしょうか?

このミスは「が」を逆接用法の接続助詞として訳してしまったことから来ています。

逆接助詞「が」は、国語文法においては(1)逆接、(2)単純な接続、という全く異なる用法で使われます。

例えば、「あの店の品物は、値は張る品質は確かだ。」では(1)の逆接、「先月、父の出版記念パーティーがあった、来賓として知事やノーベル賞受賞者もご臨席くださったので感激した。」では(2)の単純な接続です。

これらの例文は、誰にでも状況がわかる日常的な内容なので特に問題になることはないと思われます。しかし、特許明細書の場合、日常生活とはかけ離れた技術的な内容を扱いますので、安易に “ although ” 等とせず、論理を見極めることが必要です。

それでは、山田さんの訳はどう直せばいいのでしょうか?そんなに難しいことではありません。例えば、文頭の ” Although ” を削除し、重文(SV+SV)にするという方法があります。この方法で修正すると次のようになります。

(修正後の訳)
The glycerol derivatives of component (A) used in the present invention are represented by the above formula (1), and preferred ones are those which are liquid at 20°C.


なお、修正の仕方は内容によりケース・バイ・ケースですので、文章の論理を正しく理解して適切に訳すことが必要です。

山田さんは、特許翻訳歴約5年とのことですから、慣れがでてきてうっかり手が滑ってしまったものと思われます。皆さんも気を付けましょう。



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