翻訳のヒント[バックナンバー]

2017年9月 翻訳のヒント(英訳)- 中間処理:「請求項の記載」の英訳

 今回は中間処理の英訳でよく見かける「請求項の記載」の英訳について取り上げます。

 ちなみに特許出願手続きで言う「中間処理」とは、出願から登録までの手続きの流れの間(つまり中間)において、権利化に向けてなされる、特許庁と出願人間のやり取りを言います。具体的には、出願人が出願後、自発的に誤記の訂正や請求項の補正をする場合の他、審査官が拒絶理由通知を発した場合、それに対して意見書や補正書を提出することなどがあります。

 また、「中間処理」は特許出願だけでなく、当然、意匠や商標などの手続きにもありますが、ここでは特許出願における中間処理で頻出する表現を扱います。

 内外(日本の会社が外国に出願する場合をいいます)の場合は別として、外内(外国の出願人が日本出願をする場合をいいます)では、日本の審査官が発した拒絶理由通知や拒絶査定を英訳しなくてはなりません。

 その拒絶理由通知や拒絶査定の中に必ずといっていいほど出てくる表現が「請求項の記載」です。例えば、「請求項3の記載は請求項1の記載と矛盾している」、とか、「請求項1の記載は不明瞭である」、「請求項2に記載の装置は…」の他、定番表現の「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」などです。(強調のため「記載」に下線を引いてあります。)

 日本語としてこれらの表現は何ら問題ない、正しい表現です。しかし、ここに出てくる「記載」を、何の疑問もなく describe , description と訳していませんか?

 特許翻訳に慣れている方でもこの「記載」を describedescription と訳す方が多く、実際、意味は十分通じますので、何が問題なのだ、とおっしゃる方もおいででしょう。

 しかし、出願書類における請求項の機能を考えると、この英訳は不適切であることがわかるのではないでしょうか。つまり、請求項とは、第一義に権利を請求する文言を項建てしたものであり、発明を記載(describe)する部分ではありません

 よって describe , description を “ the description of claim 1 is unclear ” とか、“ claim 1 describes a filtration device in which …” 等のように使うのはお勧めできません。

 では describe , description の代わりにどういう語を使うのが適切なのでしょうか?

 外国出願を多く扱っている方ならば気づかれていると思いますが、上のような場合によく使われる語は recite (recitation)define (definition) です。名詞では languagewording も使われます。

 例えば次のように使います。

 “the wording of claim 1 could be limited only to …”

 “the claim language does not make clear the scope of ….”


 繰り返しますが、describedescription でも主張したいことは問題なく伝わります。しかし、特許明細書が法律文書である、ということを考えた場合、プロとしては法律的観点からの用語選択に留意したいものです。



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