2017年4月 翻訳のヒント (英訳) - 日本語原稿危うしと思わねば
新年度にあたり、再確認しておきたいトピックです。言うまでもなく特許明細書は書かれた文書。もし、同じ内容を実際に話で聞いたら良く理解できるのに、いざ英訳するとなると話は別。今回は、初心者でもベテラン翻訳者でも注意したい落とし穴を紹介します。次のような原文がありました。
「本発明のゴム組成物は特定のアミン類を含み、衝撃強さが低下することより、タイヤ材料の耐久性が低下することを防止することができる。」
この文章の文言上可能な解釈としては、次の二つが挙げられます。
1.アミン類が衝撃強さを低下させる働きをし、その結果耐久性の低下を防止する。
2.アミン類の存在により、衝撃強さの低下が防止され、それに起因するタイヤの耐久性低下を防止する。
明細書の記載から、この発明は、技術的にはアミン類が衝撃強さの低下を防止することが理解されました。仮に、上の1及び2の解釈に基づいて原文を英訳すると、
1. The rubber composition of the present invention contains a specific amine, which reduces the impact strength of the composition, to thereby prevent a drop in durability of a tire material produced from the composition.
2. The rubber composition of the present invention contains a specific amine, which can prevent reduction in impact strength of the composition, to thereby prevent a drop in durability of a tire material produced from the composition.
お解りのように、2の解釈とその訳文が適切です。しかし、もし解釈1の訳を採用しても文法的には何の問題もないため、翻訳ソフトがエラーとするかどうかはわかりません。また、翻訳者は時間がないと1の解釈をしてしまう可能性は否定できません。
このような場合、誤訳を防ぐには発明の技術内容をアウトライン化することが大切です。本件では、
アミンが衝撃強さを維持するゴム組成物用添加物である。
その存在によりゴム組成物の衝撃強さが維持される。
その結果、このゴム組成物から得られるタイヤ材料の耐久性が維持される。
技術的理解は、文章単独では決まらず、明細書全体から判断する必要があります。そのことからも、「書かれた文」をそのまま訳すのではなく、その文章を一旦分解・解析して、技術的に矛盾のない解釈をし、その結果を英訳する必要があるのです。上に挙げた以外にも、この種の例は実際頻繁にでてきています。翻訳者は時間がないとついつい単純な解釈で訳してしまうことがありますので、ここでしっかりと翻訳の前に前処理をしておくことが肝要です。この「前処理」ができれば、もう翻訳の半分以上が終わったといえるでしょう。
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