2016年8月 翻訳のヒント (スペシャルトピック) - 発音の大切さ
翻訳者、特に特許翻訳者は文字で情報を伝えることが普通で、訳した英語の発音を気にしない方もかなりいると思われます。翻訳以外、人対人で技術的な話をするようなケースでは、英語を母国語としない国や、英語を使う国であってもシンガポールやインドでは多少の「変則発音」も堂々と受け入れられています。しかし、物質の名称、特に元素名については正確な発音を心がけていないと、自分が聞いても理解できず、他者に話しても理解してもらえないことがよくあります。日本語の元素名はカタカナで表記されるものが多く、日本人は特に「カタカナ」語を英語に入れ込んでしまいがちです。今回のテーマは、理化学研究所発見の原子番号133の新元素が「ニホニウム」と命名されたことに関連します。国際機関のIUPACへの申請時の「ニホニウム」の英語綴りは"nihonium"です。アクセントは"nihonium"の"o"に置かれるのが自然で、nihonniumのようにnが重ならないことから、"o"は音声学的には長母音か二重母音になるはずです。
また、日本化学会は、"-ium"で終わる元素に共通な字訳として「-イウム(子音が先行する場合はその子音も含める)」をガイドラインとしていますが、英語では「イウム」より寧ろ「イァム」に聞こえるはずです(紙面の都合で発音記号は記載しませんが、電子辞書等で実際の音をご確認ください)。
従って、"nihonium"の発音は、カタカナで模擬的に表現すれば「ニホニウム」ではなく、「ニホーニァム」か「ニホウニァム」になるはずです。折角、日本に因んだ元素名ですから、日本人が英語で発音する際、正確に発音したいものです。
さて、"nihonium"から話を始めましたが、既存の元素名を英語で発音してみたことが皆さんおありでしょうか?経験のない方は、時間のあるときにでも一度トライしてみましょう。あやふやなものは、電子辞書等で音を確認しましょう。原発事故後頻繁に頻出した"strontium"、半導体分野でお馴染みの"germanium"他、"barium"、"lithium"、"xenon"等、英語ネイティヴに理解してもらえない発音をしている可能性があるのです。英語ネイティヴの"germanium"の発音を聞いて「ゲルマニウム」のことかと気づかない方もいらっしゃいませんか?全ての元素とはいいいませんが、ご自身の翻訳に関連する英語元素名は知っていて損はないと思います。
元素名、物質名だけでなく、他の単語の発音にも注意する習慣によって、英語のリズムが身につき、間接的ではありますがネイティヴにわかりやすい文につながりましょう。特許明細書では複雑難解な文を訳すわけですが、自身の訳文を正確に声にだしてみると、訳に対する何らかの改善効果が得られるかもしれません。
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