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2016年7月 翻訳のヒント (英訳) - セラミック成形分野の「脱脂」とは?

 同じ一つの用語でも技術分野が異なれば、異なる英語表現がなされる例についてはこれまでも見てきました。今日は「脱脂」という語を取り上げてみます。

「脱脂」の基本概念は「(広義の)油分を取り除く」ということですが、分野によって、また、何の目的でどういう操作をするのか、によっていろいろな英語表現があります。

 下に思いつくままに簡単にまとめてみました。

1.主に機械分野、防錆・防食分野、金属表面処理分野で、表面処理の一つとして行われる「脱脂」。英語は degrease.

 例えば、機械部品の表面の油汚れを落とす脱脂処理(脱脂洗浄は degreasing and cleaning )や、材料表面(被塗装面)の油分を除去して塗料の密着性を良くするための脱脂処理があります。主として化学薬品が使われます。

2.生命科学や食品分野で、材料から脂質( lipids )を除去する操作としての「脱脂」。英語は「除去」を意味する接頭語 “de” と脂質 “lipid” からの合成語で delipidate(名詞は delipidation 或いは delipidization ).

 例えば血清やタンパク質から脂質を取り除く操作をいいます。

3.食品化学分野で、原料から脂肪分を抽出除去する操作としての「脱脂」。英語は defat.

 例えば、脱脂大豆粉末は defatted soybean powder、脱脂米ぬかは defatted rice bran など。ロウ分が多い米ぬか油について行われる「脱脂・脱蝋処理」は dewaxing and degreasing.

そして最後に、きょうの主題の「セラミック成形分野の脱脂」です。

4.セラミックの成形では、セラミック材料に樹脂やロウなどのバインダー(結合材)を混ぜて成形した後、焼成しますが、できた製品内にバインダーを残さないよう、取り除く必要があります。このプロセスが「脱脂」と呼ばれるものです。特にセラミック射出成形ではバインダー量が多いため、そのまま焼成すると製品に割れなどが発生するため、500度以下の低温でゆっくり時間をかけてバインダーを分解除去します。バインダーの除去ですので、英語では de+binder で、debinder が用いられます。

 このように、同じ「脱脂」という語でも技術分野や、「脱脂」の目的・操作によって英語表現は異なりますので気を付けましょう。


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