2016年2月 翻訳のヒント (英訳・和訳) - 語順の大切さ
文章を構成する各単語の配列の仕方(語順)は英文と和文とで異なることは当然です。 翻訳ツールや日英間の単語変換ツールが翻訳の現場で多用されつつある現在、翻訳者も語彙レベルでの正確さにまず目がいってしまいがちで、その結果訳文がぎこちなくなっていることもあると思います。この一因として、原文の語順どおりに律儀に翻訳していることが挙げられます。 この点を再認識して翻訳のスタンスを見直すことにより、より読みやすい訳文とすることができます。苦労して翻訳した結果、原文より読みにくくなっては元も子もありません。 では、例をみてみましょう。1.(和訳)
英文明細書頻出の文です。"Preferably, the catalyst of the present invention is, for example, an alkali metal oxide."
無論簡単に訳せる英文です。これを原文通りの語順で和訳した例が次です。「好ましくは、本発明の触媒は、例えば、アルカリ金属酸化物である。」
この訳は間違ってはいませんが、「好ましくは、」で始めるのはいささか機械的。そして、一文に読点が多く読み手には負担がかかります。そこで、「本発明の触媒としてはアルカリ金属酸化物等が好ましい。」
とすれば、自然な表現で、読点なしに簡潔に同様の意味が伝わります。 特に文頭の「好ましくは、」を、文末の「好ましい」に書き換えることは大変有効な訳のスタンスで、上の例はもちろん、より複雑な文の場合更に有効です。2.(英訳)
「この混合物を35℃から37℃の温度範囲にてインキュベーターで一晩振盪培養した。」
これを原文の語順どおりに訳した例が次です。"The mixture was cultured in a temperature range of 35°C to 37°C by means of an incubator overnight under shaking."
当業者であればもちろんこの英文を読んでも技術内容を正確に理解できますが、この英文は読みにくくありませんか? 翻訳会社によっては、この種の表現を、「温度、時間、手段の順で記述すること」等の指示を翻訳者に伝えていることもあるようです。原文の語順をそのまま訳文に反映させる義務はありません。 各要素が更に長く複雑になった場合をも想定して読みやすいように改変すると、"The mixture was shake-cultured overnight at 35°C to 37°C by means of an incubator."
と読みやすくすることができます。 温度範囲の"a temperature range of"はこの場合不要です。副詞の位置、各要素の位置に決められたルールなどありません。自然なスタイルをネイティヴの英文等で身に着けましょう。上の2例は、いずれも単純なケースですが、特許明細書における原文はもっと長く複雑なこともよくあるので、訳文における語順は特に大事です。 翻訳結果の訳文は自己満足ではなりません。読者や読み手(特に各国特許審査官)に負担をかけない翻訳、即ち読みやすさは、ほんの少しの心遣いでできることを肝に銘じましょう。
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