翻訳のヒント[バックナンバー]

2015年12月 翻訳のヒント(英訳) - 「以上、以下」等の訳


 特許明細書や請求の範囲において、「以上」「超」、或いは「以下」「未満」は厳密に区別される必要があり、翻訳会社のマニュアルでも翻訳者にそのように指示していると思います。

 従って、権利範囲に関わる数値範囲では、例えば「以下」"X or less (lower, smaller, etc.)" 又は "equal to or less (lower, smaller, etc.) than X" と訳し、「未満」"less (lower, smaller, etc.) than X" と訳して区別しています。

 ところが、日本語では特に厳密な数値範囲を意識せずに「以下」「以上」を使うことがあり、読者も不自然な感じを持たず、適切に理解することが多いのです。

 次の例を見てください。

「年間患者数は10万以下であった」
「これら測定値は基準値の100%以下であった」

 患者数の例では、10万人を含むか含まないかを考慮した表現でなく、単に患者数が6桁でなく5桁以下であることを言いたいのです。また、測定値の例では、実際全ての測定値が100%を下回っていて、100%という数値は存在しなかった例でした。

 このようなケースで、"100,000 or less""equal to or less than 100%" という表現は不自然であることは明らかでしょう。

 このように、権利範囲や技術的定義以外の文脈において「以下」「以上」を機械的に訳してしまっては、むしろ誤訳ともなり得ます。訳者だけでなくチェッカーの方にも注意が必要です。型にはまった先入観で仕事をしてはいけないのが翻訳の世界です。


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