翻訳のヒント[バックナンバー]

2015年10月 翻訳のヒント(英訳) - 「~よい」の訳

 日本語の「よい」は幅広い意味を持ちます。うっかりしていると原文の意図を誤解することもあり、英訳する際にはよく状況を考える必要があります。幾つか例を見てみましょう。

ケース1 反応を促進するためには、反応系を200℃以上に加熱するとよい。

 この場合の「よい」は「好ましい」の意味で、特許明細書では「加熱することが好ましい」と書かれることが多いと思います。このケースは、preferableやpreferred を使います。

(英訳例)
The reaction system is preferably heated at 200°C or higher.
Heating the reaction system at 200°C or higher is preferred.


ケース2 本組成物の酸化を防ぐには安定剤を添加すればよい。

 この場合の「よい」は、そうすることの必然性を表していますので、しなければ結果が得られない状況を意味しています。従ってpreferableではなく、必要性を含む積極的な表現とします。

(英訳例)
A stabilizer is added to the composition in order to prevent oxidation of the composition.
Addition of a stabilizer is required to prevent oxidation of the composition.
Oxidation of the composition can be prevented by adding a stabilizer thereto.


ケース3 安定剤は酸性物質であればよい。

 この「よい」は、そうであれば十分であることを意味しています。とはいえ、it is sufficient thatとするのは機械的過ぎますので工夫してみましょう。

(英訳例)
Any stabilizer may be used, so long as it is an acidic substance.
An acidic substance can serve as a stabilizer.


ケース4 安定剤は酸性物質としてもよい。

 この「よい」は、選択可能範囲を広げる明細書頻出表現です。mayを使って訳しましょう。

(英訳例)
The stabilizer may also be an acidic substance.
An acidic substance may also be used as a stabilizer.

 原文に「よい」があると、つい言葉にとらわれて it is sufficient thatit is preferred that を使いがちですが、原文における「よい」の意図をしっかり汲み取って、そのニュアンスに沿った英語にすればよいのです。従って翻訳者のフレキシブルな発想が大切となります。


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