2015年7月 明細書英訳(医薬・バイオ分野)- 「意識下」とは?
今回はちょっとした不注意が大きな誤訳に繋がってしまう例を取り上げます。弊社で最近実際にあったもので、チェッカーが納品前に気づいたので事なきを得ましたが、皆さんも是非、気を付けていただきたいと思います。皆さんは「意識下」という言葉をどう理解していますか?
動物実験や一般医薬の分野の方であれば、「意識下鎮静」や「意識下挿管」等の「意識下」の使い方が頭に浮かぶかもしれません。
これらの場合の「意識下」は、「意識がある状態で」、とか「意識がある状態のもとで」という意味ですから、英語では例えば、"in the conscious state" ということになります。状況によっては "awake" も使えます。
一方、医学分野の中でも脳神経分野の方や、心理学、哲学方面の方であれば、「意識下」を「意識のあるレベルに達していない状態で」とか「無意識で」と理解されるかもしれません。その場合は、英語では "in the subconscious state" と表現できます。文脈によっては "unconsciously" がより適切であるかもしれません。また、広告関係の方であれば "subliminal" も思いつくでしょう。
問題は、訳者が自分になじみのない分野の翻訳を行なう場合、手軽なオンライン辞書に頼りがちなことです。オンライン辞書が悪いわけではなく、確かに便利なのですが、すこしでも疑問が残ったら「裏を取る」ことをしなくてはなりません。
今回の「意識下」の例でも、実際にインターネットの実用日本語表現辞典や Weblio和英辞書など、検索結果のトップに出てくる辞書では「意識下」の意味として「習慣になっていて意識しないような状態や水準などのことを指す表現」、英訳として "subconscious" しかでてきません。
今回の翻訳案件の原文は次のようなものでした(一部改変)。
「ラットへの~投与及び測定は、意識下、無拘束、無麻酔下で行なった。」
この場合の「意識下」は、「意識がある状態で」という意味ですので、英語では例えば、"in the conscious state" ということになります。
よって、"...were subconsciously performed without anesthesia and restriction." ではなく、" ...were performed in the conscious, free-moving state without anesthesia." などとなります。
自分の得意分野でない案件を翻訳する場合でも、その文章が表している状況や背景を考えれば、少なくともオンライン辞書の訳語に疑問を持つことが出来るとおもいます。
また、動物実験関連の論文や特許では、ある程度決まった手続きが用いられることが多いので、インターネットでいくつかキーワードを掛け合わせて論文の中から探すと、類似の実験手続きの英文がまるごとでてくることがありますので、実験手続きを訳す場合はこのようなリサーチ方法も試してみる価値があります。
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