翻訳のヒント[バックナンバー]

2015年6月 翻訳のヒント(英訳) - 実態に合っているか?

 先日PCT国際出願のフロントページの要約書を見ていたところ、こんな表現がありました。
   「式(III)で表されるカルボン酸の塩」

 化学系の方であれば、式(III)が「カルボン酸」なのか「カルボン酸塩」なのかが曖昧な上の表現を、式(III)を見ることで直ぐに確認するでしょう。実際見てみると、この構造式(III)は遊離のカルボン酸でなく、カルボン酸の塩を表していました。

 では英文はどうだったか?次のようでした。
   “a salt of a carboxylic acid represented by formula (III)”

 これでは、英文だけを読んだときに formula (III) が acid を表すのか salt を表すのか、二通りに解釈できます。この英文を上の式(III)の実態に合うようにするには、
   “a carboxylic acid salt represented by formula (III)”

と書き換えればいいのです。これなら式(III)が塩を表すことがはっきりします。
 また、この修正訳の利点は、不定冠詞の表現を定冠詞で受ける際に(即ち、「カルボン酸の塩」が次に出てきたときに)、一か所の a を the に変えれば済むことです。元訳では不定冠詞が二か所使われているだけに、その処理に苦労します。

 どうやら、元英訳は「カルボン酸の塩」の「」を機械的に訳したのかもしれません。ただ、今回のトピックの例だけでなく、形式や複雑さが変わっただけの類似のケースがよくあるはずです。曖昧さを避けるべきクレームの英文などには、特に考えてみる必要があります。

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