2015年5月 明細書英訳(電気・機械分野) - 自動詞と他動詞
今回は実際に翻訳者から上がってきた英訳を考えてみます。発明はセンサに関するものです。原和文は、明細書の「背景技術」の中の記述で、次の文章です。
「感温素子としては、温度によって電気的特性(電気抵抗値)が変化する金属抵抗体や、......(途中略)......などが挙げられる。」
この部分は次のように英訳されていました。
"Examples of the temperature sensitive element include an element including a metallic resistor that changes its electrical property (electric resistance) according to temperature, ...... ."
この中に、少なくとも3箇所ほど検討を要する点がありますが気がつきますか?
まず、動詞 "changes" が目的語 "its electrical property" をとっており、他動詞として使われている点です。つまりこの訳者は、原文の自動詞「変わる」、「変化する」を、他動詞「変える」、「変化させる」と読み替えています。
これは、読みやすい自然な英文にするためになされるべき、本当に必要且つ正しい読み替えでしょうか?
金属抵抗体は、通常の環境では温度が上がれば物理現象の必然として「自然に」電気抵抗値が上がる(=変化する)のではないでしょうか?よって「上がる」、「変化する」という自動詞で表現するのが自然であるということになります。
次に "its" が何を指すのかが英文でははっきりしません。"element" を指すのか、それとも "resistor" を指すのか不明確です。原和文と対応させてみて初めて、この訳者は「その(=自分自身、即ち金属抵抗体自身の)電気抵抗値を温度によって変化させる金属抵抗体」と考えて英訳したのだ、ということがわかります。
これは、次に述べる第3点とも関連してきます。訳者は、"according to temperature" という表現を使っています。"according to" は、"according to the weather forecast" や "according to my dictionary" などのように、「何か準拠すべきものや信頼に足る存在、或いは権威あるものによれば」、という使い方が基本です。その考え方で行くと、上の訳文から読み取れるのは、訳者は「"temperature" という権威ある存在の指示に従って」と、多少擬人化した表現を採用したのであろうか、ということです(皮肉です)。
上に3つの検討点を挙げ、訳者が何を考えてこういう英文を作ったのかを推しはかって見ました。しかし問題は、読者に頭をひねらせる英文でなく、すんなり頭に入る易しい英文表現にすることです。読者の皆さんはどういう英文にしますか?
出来るだけ原文を生かした形での修正訳例を下にあげておきます。上と同じ動詞 "changes" を使いましたが、自動詞として使っています。
Examples of the temperature sensitive element include an element including a metallic resistor whose electrical property (electric resistance) changes with temperature, ...... ."
なお、"include"と"including"という同じ語がこの短い文中に出てきていることは多少 awkward であり口調が良くありませんが、技術上の理解を妨げるものでないのでそのままにしてあります。
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