2015年4月 翻訳のヒント(英訳) - 発現は遺伝子?タンパク質?
遺伝子工学における遺伝子の発現は、遺伝子情報が細胞における構造および機能に変換される過程であり、 一般には遺伝情報に基づいてタンパク質が合成されることですが、「発現」に対する英語はexpress(動詞)、expression(名詞)であることは皆さんご承知だと思います。英語の用法としては、「遺伝子(又はその等価物)」が動詞"express"の目的語となります。 また、名詞"expression of"の後に来る語も同じく「遺伝子(又はその等価物)」です。従って英語表現は、to express gene X、expression of gene Y等となります。
ところが、これと同時に遺伝子発現の産物であるタンパク質について、「タンパク質の発現」という表現も当業者に普通に受け入れられ、頻繁に使われています。 「タンパク質の発現」の英訳として、to express protein A、expression of protein B、expressed protein C等の対応する英訳も数多く見られ、 市民権を得ているようですが、英語の用法の見地からは正しいと言えません。場合によると、expression of gene A とexpression of protein Aが 同じ明細書に混在してしまうことすらあります。
「タンパク質の発現」を英語として正しく表現すると、例えば、下の(a)や、やや簡略化した(b)となり、頻出する場合には読みづらくなってしまいます。
(a) formation of protein A through expression of a gene encoding protein A
(b) production of protein B via gene expression"
そこで、もしexpression of protein A を使わざるを得ないときには、明細書で初出時に、 例えば、production of protein A via gene expression (hereinafter also referred to simply as "expression of protein A")のように一度定義を入れておけば、 上述の矛盾をある程度解消できると思われます。
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