翻訳のヒント[バックナンバー]

2014年11月 翻訳のヒント(英訳) - 基板・支持体

機能性物質や材料を使用したり製造したりする場合、それらを支持するための基板や支持体が使われることがあります。和文明細書中の基板、基体、支持体等に対応する英語は色々ありますが、それらの英語の語源を知っておくと適切な訳語を選択する参考になりますので、整理しておきましょう。尚、今回は「基板」からは電気関連の「回路基板」を除くこととします。
 
1.Substrate
 「基板」としてよく使われる"substrate"は、"substratum (sub=下、stratum=層)"を起源としています。従って"substrate"の最も基本的な意味は、対象物の下方に位置する層状の物体です。例えば、薄膜半導体を成長させる基板(growth substrate)や、塗布して硬化したポリマーを剥がしてフィルムを形成するための基体(substrate)には、"substrate"が最も適切です。

2.Support
 名詞として使われる"support"は、「下で支える」が原意です。従って、重みや圧力に耐えて、上にある物質や材料を支える場合に最も適した用語です。例えば、フロー式のバイオセンサーの酵素など反応性材料をしっかり固定化するための支持体(support)や、太陽光パネルで重いシリコン板を支える支持体(support)に"support"が適切です。

3.Carrier
 病原菌の保有者にも使われる"carrier"は、「車両で運ぶ」が原意です。転じて化学や物理の世界では、小サイズの支持体とも認識される粒子にも使われます。物質中の電流を担う荷電粒子(charge carrier)や、医薬の担体(pharmaceutical carrier)、触媒金属を分散してリアクターや排ガスパイプに届けるための担体(carrier)がその例です。

4.Base
 最も一般的に基体や支持体を表すのが"base"です。どのような基体や支持体に対して使用しても間違いとは言えません。しかし、"base"は基体や支持体以外にも、(酸に対する)塩基、トランジスターにおけるベース、材料(化粧品の基剤等)なども指し、更には形容詞として使われることもあるため、どうしても選択する必要にせまられなければ避けたほうが良いと思います。同じ英文明細書の中で、"base"を複数の意味で使うと読み手の理解に負担をかける可能性があるからです。

5.その他
 1~4以外にも、枠体、骨格等には"frame"、"skeleton"が使えることがあります。また、substructure, backbone, foundationなどにも基礎、基体の意味があります。いずれにしても、英訳する対象の日本語の文字にだけにとらわれず実体をよく見極めて、適切な英語を選択することが大切です。その際、各分野でどのような用語が通常使われているのかを確認しておくことも必要です。

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