2014年2月 翻訳のヒント(英訳) - 明細書英訳(従来技術と過去形)
日本の明細書では一般に、発明が従来の技術とどのように異なりその違いがどのような効果をもたらすのかが記述されます。その記述は、主に【背景技術】や【発明が解決しようとする課題】という見出しのもとにおいてなされ、従来品にどのような問題があるのか、そしてどのような改善が望まれていたのかが述べられます。
そこでたまに見られるのが次のような文章です。
例1)特許文献1に記載の装置では開口部が装置側面に設けられていた。
例2)特許文献1には、AがBであることが記載されていた。
例3)特許文献1では動力源に太陽エネルギーや風力などの自然エネルギーを利用していた。
これらの文に共通の表現上の特徴にお気づきでしょうか?それは「た」で終わる文章であることです。
翻訳初心者は日本語の文末が「た」で終わっていると、英訳の際に即、過去形をあててしまいがちです。
しかし、日本語の「時制」(日本語文法にこの言葉を使うのが正しいかどうかは別として)は英語の時制とは異なります。「た」で終っている文章でも「過ぎ去ってしまった過去の事象」を述べているとは限りません。
日常会話の次の例を考えてみてください。
a)「どう?見える?」「見えた、見えた!」
b)「良くわかりました。」
これらの表現において、「た」は過ぎ去った過去のことを示すものではありません。
最初の例文に戻ると、例1)では、「設けられていた」からとって、
The apparatus disclosed in ..... had ....
とか、
An opening was provided .....
と訳すと、かつては設けられていた(が、今はそうではないかもしれない)ということになりますから、非常に不自然です。
むしろ、例1)から例3)は、次のように日本語を読みかえてみると、どういう訳がより適切か、理解できると思います。
例1’)特許文献1に記載の装置では開口部が装置側面に設けられている。
例2’)特許文献1には、AがBであることが記載されている。
例3’)特許文献1では動力源に太陽エネルギーや風力などの自然エネルギーを利用する。
このように書き換えてみても、主張すべき意味・内容が変わってくるでしょうか?変わりませんし、むしろ、これらの日本語表現に置き換えた上で訳す必要があります。なぜなら、例1)では、特許文献1に記載の装置は、時空を超えて常にその開口部が装置側面に存在するわけですし、例2)では、特許文献1は、昨日読んでも、今日読んでも、また来年読んでも、つまり時空を超えて、「AがBである」ということが記載されているからです。
つまり、これらの例文は、英語では全て現在形で書かなければなりません。
ぼんやりしていると、ついうっかりしがちですので気をつけましょう。
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