翻訳のヒント[バックナンバー]

2013年7月  翻訳のヒント(英訳) - チアミンに注意

 暑くなるとビタミンB1剤を補給することも多いと思いますが、ビタミンB1の慣用的化学名はチアミンです。チアミンの英語名は"thiamine"で化学構造のアミンに由来します。一方、チアミンがビタミンであることから歴史的に"vitamin"由来の綴りである"thiamin"も併用されます。

 綴りに"e"があるかないか以外にも、「チアミン」には英語綴りの問題があります。例えば「フルスルチアミン」の英語名は"fursulthiamine"ではなく、"fursultiamine"です。化学系の方は化合物の系統的な命名に慣れているので、英訳時に「チアミン」を含む用語に"thiamine"を使ってしまいがちですが、いつも正しいとは限らない例です。

 ビタミン等の天然由来物質は、化学構造に基づく系統的な名称が大変長いことが多く、通常慣用名が使われます。慣用名にも化学構造に由来するものと、そうでないものがあります。このため、同一の物質でありながら、複数の異なる日本語名称で呼ばれるものがでてくるのです。そのような異なる日本語表記A、Bがあったとして、どちらにも「チアミン」が入っている場合、その英語綴りが異なることがよくあります。一例を挙げてみます。

(ビスベンチアミン)
 ビタミンの一種であり、通常「ビスベンチアミン」と呼ばれる化合物です。この英語名は"bisbentiamine"です。この化合物の構造由来の系統的名称には、頻繁には使われない「ベンゾイルチアミンジスルフィド」があります。こちらは英語にすると"benzoylthiamine disulfide"となります。「チアミン」が二通りの英語で綴られます。

 同様のケースは多々あります(例えば、ジセチアミン(dicethiamine)とセトチアミン(cetotiamine)。特許明細書では化合物の例示等で、何ヶ所も「チアミン」が記載されることがあります。こんなときは、翻訳メモリーや機械変換等のツールが活躍しますが、「チアミン」と"thiamine"が一対一の対応であると、"thiamine"に一括変換されてしまい、複数の英語綴りには対応できません。

 この機会にビタミンB1剤を飲みながら、翻訳ツールや翻訳者自身の頭の中を確認・整理してみるとよいでしょう。

*****


過去の翻訳のヒント
その他関連項目