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2013年6月  明細書英訳 - クレーム表現:「~する段階」

 方法クレームに良く出てくる表現に、「~する段階と、~する段階と、~する段階とを含む××」というものがあります。機械分野ですと「工程」という語を用い、「~する工程と、~する工程と、~する工程とを含む××」と記述される場合も多く見られます。また、「~するステップと、~するステップと、~するステップとを含む××」という表現も見られます。

 上の「段階」、「工程」、「ステップ」は英語では全て"step"であることは特許翻訳初心者の方でも恐らくご存知でしょう。

 しかし、"step for ...ing"か"step of ...ing"かということになると悩む方も多いのではないでしょうか。

 具体例で考えて見ましょう。継目無し鋼管の製造方法に関するクレームにおいて、「連続鋳造によって断面円形形状のビレットを製造する段階」がそのクレームを構成する一工程として記載されている場合、皆さんは次のどちらの表現を使いますか?
A) a step for producing a billet having a round cross section by continuous casting

B) a step of producing a billet having a round cross section by continuous casting

 "step"でなく"method"については、"method for ...ing"も"method of ...ing"もどちらも使用でき且つ正しい表現ですので、"step"も"method"と同じように使えると思っていませんか?

 しかし、「段階」(工程、ステップ)の場合は、「~する」(上の例では「製造する」)ということ自体が「段階」ですので、英語ではいわゆる同格表現がとられます。即ち、"step"の場合は、"of"を使用して"a step of producing ......"と書くことになります。

 原日本明細書で「段階」や「工程」という文言が使用されている場合、これらの語を修飾する文言は "act" の限定、ないし同格ですので、下に述べる「機能的表現かどうか」という問題を引起さないためにも、"a step of ...ing" で書くことをお勧めします。

 ちなみに、米国では "means" (手段)や "step" (段階、工程、ステップ)に関して、従来、「ミーンズ・プラス・ファンクション」、「ステップ・プラス・ファンクション」というクレーム表現の解釈が問題になっています。もし「機能的表現である」と解釈されれば、明細書中に記載の具体的actやstepに限定解釈されます。一方、"a step of ...ing" と記載すれば、そのクレームは、文言どおりに解釈されますので、翻訳者がクレーム解釈について責任を問われることは無いでしょう。

 よって安全のために、「段階」("step")がでてきたら常に "a step of ...ing" と訳す、と覚えておきましょう。

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