翻訳のヒント[バックナンバー]

2013年4月  明細書英訳 - "depending on" vs. "in accordance with"

 機械分野、化学分野を問わず、よく出てくる日本語表現に「~に依存して(変化する)」というものがあります。

 例えば、「変換率αは入力した変位量に依存して変化する」、「突出部の長さは屈曲部の角度に依存して変わる」などです。

 これを英訳する際に、「依存」、「依存して」とくると、自動的に"depending on"と置き換えてしまっていませんか?

 日本語の「依存して」は"in accordance with"と表現すべきことが多いので、気をつけましょう。

 上の最初の例、「変換率aは入力変位量に依存して変化する」について言えば、

(誤)Conversion ratio ? varies depending on the amount of input displacement.
(正)Conversion ratio ? varies in accordance with the amount of input displacement.

となります。

英語の"depend on"は日本語では「~次第で」、「~に応じて」、「~によって(=依存して)」などと訳され、"in accordance with"は「~に従って」、「~に基づいて」と訳されますが、例文がないとわかりにくいでしょう。一度、それぞれが正しく使われた例文を集めて比べてみてください。

"depend on"の本質をよく表しているのは次の文です。

- They are difficult people and everything depends on the mood they are in.(彼らは気難しい人たちで、すべては彼らの気分次第である。)
出典:ジーニアス英和大辞典より

- The answer varies depending on whom you ask.(誰に聞くかによって答えは変わってくる。=答えはあなたが聞く人次第(で様々)だ。)

 このニュアンスがわかれば、"in accordance with" との使い分けができるようになるでしょう。

 「依存」という語があると、"dependent"を反射的に使ってしまう技術翻訳者がなぜ多いのかを考えてみますと、「温度依存性」(=temperature dependence)という確立した、しかもよく使われる技術用語があるからだと思われます。


 例えば、"A thermistor is a temperature-dependent resistor." という文では"temperature-dependent"は「温度依存性の」という語の正しい訳語です。

 これが頭にあるために、一般的な表現である、「○○は△△に{依存して/従って/よって}変化する」という文を英訳するときにも、すぐに"varies depending on"に飛びついてしまうのだと思います、

 今一度立ち止まって、"varies with …""varies in accordance with …"の方がより適切ではないか、と考え直す習慣を身につけましょう。

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