2013年3月 翻訳のヒント(和訳)(続)読み易さへの工夫
特許明細書の「好ましい態様」の記載では、本願発明での限定事項以外にも、当業者に知られた物や方法の利用可能性や、各要素の実例等が記載されます。従って、言いたいことが限定なのか、非限定なのか、例示なのかを常に頭に置いて翻訳すると明細書らしい文になります。日本特許庁に出願する明細書のための和訳であれば、審査官にすんなり読んでもらえる和文にすることが大事です。実際の和訳の例で見てみましょう。
(原英文)The metal oxide film of the present invention may be formed through known vapor phase film formation processes including, but are not limited to, CVD, MOCVD, PVD, and sputtering.
(残念な和訳例)本発明の金属酸化物膜は、CVDやMOCVD、PVD、スパッタリングを含むがこれらに限定されない公知の気相成膜プロセスにより形成することができる。
この訳ですと、「金属酸化物膜は~を含む」と誤読されかねないと共に、「金属酸化物膜は」から「公知の気相成膜プロセスにより形成することができる。」の間に該プロセスの例が入り込んでいるので読みにくいはずです。そこで、改訳例1のようにすれば読みやすくなります。これは公知のプロセスで形成できることと、プロセスの例を分けて訳した例です。
(改訳例1)本発明の金属酸化物膜は、公知の気相成膜プロセスにより形成することができる。気相成膜プロセスの例としてはCVDやMOCVD、PVD、スパッタリングが挙げられるがこれらに限定されない。
また、「限定されない」ことを「等」で表して次の改訳例2のように訳すことも可能です。
(改訳例2)本発明の金属酸化物膜は、CVDやMOCVD、PVD、スパッタリング等、公知の気相成膜プロセスにより形成することができる。
原文の複雑さの程度にもよりますが、皆さん自身で原文の意味をよく考え、読み易い翻訳を工夫してください。
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