2012年9月 翻訳のヒント(和訳) 「受動態の訳し方」
中学校の英語では、能動態は「~する」、受動態は「~される、させる」と訳すと教えられるせいか、実務翻訳でもこれを踏襲してしまうことがあるようです。そのために不自然な訳となることもあります。機械系の明細書では受け身の訳の方が適切であることも多いのですが、化学系の場合は少し事情が異なります。化学系の和訳の現場から原英文が受動態で書かれている例を拾ってみました。
(受動訳)酢酸エチルを加水分解することにより酢酸が製造される。
(能動訳)酢酸エチルを加水分解することにより酢酸を製造する。
上の受動訳も文脈によっては(客観的にプロセスを観察している場合等)可能ですが、意図された酢酸の製造を表現するなら能動訳の方が自然です。
更には、この能動訳を次のように工夫することでより自然な表現になります。
(自然な訳1)酢酸エチルを加水分解して酢酸を製造する。
もちろん、受動訳が一概に不自然であるとは言えません。次の訳は受身表現をとりつつも自然な日本文です。
(自然な訳2)酢酸は酢酸エチルを加水分解することで得られる。
どちらの表現が適訳かは、前後の文脈から文の力点がどこに置かれているかを判断して決めましょう。
例2.(原文)Acetic acid is formed through hydrolysis of ethyl acetate.
(受動訳)酢酸エチルを加水分解することにより酢酸が生成される。
(能動訳1)酢酸エチルを加水分解することにより酢酸を生成する。
(能動訳2)酢酸エチルを加水分解することにより酢酸が生成する。
結論から言うと「生成」は、「~(物)が生成する」という表現で使うのが最も自然です。従って能動訳2が適訳です。受動訳は日本語として不自然です。能動訳1は「生成」でなく「製造」ならば例1のように適訳です。製造は「意図的に製造する」、生成は「意図しなくても生成する」と考えると理解しやすいと思います。
このように、受動態の英文を受動的に訳出すべきかどうか、また、能動的に訳出するにしてもどのような表現とするかは、文脈と日本語としての自然さから決まることがわかります。
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