翻訳のヒント[バックナンバー]

2011年7月 翻訳のヒント(和訳) もう少しだけ想像力を!

特許明細書は当業者に理解可能であるように書かれていればよいとされていますので、造語や辞書にない用語・用法が使われていることが多々あります。そのような原文を翻訳する際には、翻訳者は十分気をつけて達意の訳文を心がけなくてはなりません。辞書に記載されている意味や用法のみに頼っていては良い翻訳になりません。

今回は化学分野の英文和訳において、ちょっと気をつけるだけで読みやすく理解しやすくなる語の例を挙げてみます。

Reaction
 化学における「反応」です。通常、辞書では「反応」という現象や概念を指す語としての訳しか見当たりませんが、次の場合はどうでしょうか。

・・・ The mixture was allowed to react at 100゚C, and the reaction was cooled and removed from the reactor.

 後半の部分を「反応を低温にして、反応器から除去した」と訳してしまっては日本文として意味がはっきりしません。この場合、reaction は反応生成物(reaction mixture又はreaction product)という実体のある「物」を指しています。この用法は英文明細書で使われることがあり、当業者であれば理解される範囲の用法です。従って、「反応生成物を冷却して反応器から取り出した」と訳したほうがいいでしょう。
Culture
 生物分野における「培養」です。「反応」の場合と同様、培養の結果得られた実体のある「物」を指すこともあります。

・・・ The mixture contains cells of bacterium X or a culture thereof.

 この場合、「Xの菌体又はその培養を含む」ではなく、「Xの菌体又はその培養物を含む」と訳します。

 辞書の呪縛から解放され、ほんのちょっと想像力を働かせることで格段に読みやすい文章になります。
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