2011年6月 明細書和訳 - 誤訳の見つけ方1(実際の訳例に基づいて)
今回は、ベテラン翻訳者でもついやってしまいがちな誤訳の例を挙げ、誤訳であることに気付くためのポイントを考えてみます。次の英文はある米国第一国出願の英文明細書の実施形態の部分の抜粋と、訳者Aさんの和訳です。
(原文) The assembly 22 also includes at least one heater and, preferably, two elongated, flexible heaters, generally indicated at 54 and 56, respectively.
(Aさんの訳文) アッセンブリ22は、また、それぞれ全体が54と56で示された少なくとも1本のヒータと、好ましくは2本の細長いフレキシブルなヒータを有する。
(Aさんの訳文) アッセンブリ22は、また、それぞれ全体が54と56で示された少なくとも1本のヒータと、好ましくは2本の細長いフレキシブルなヒータを有する。
図面を参照しないとわかりにくいかもしれませんが、英文を素直に読めば次のように訳せるはずです。
(訳例1)アッセンブリ22はまた、少なくとも1本のヒータを有し、好ましくは、それぞれ全体を54と56で示す2本の細長いフレキシブルなヒータを有する。
(訳例2)アッセンブリ22はまた、少なくとも1本のヒータを、好ましくは、全体を54と56で示す2本の細長いフレキシブルなヒータを有する。
ここで訳例1と2は、表現は多少異なるものの、状況の理解は共通です。即ち、アッセンブリは少なくとも1本のヒータを備えることが必要であるが、細長いヒータが2本(それぞれ54、56で示されている)存在すればより好都合である、という理解です。
これに対し、Aさんの訳によれば、番号54と56で表される「少なくとも1本のヒータ」を有することが必要であること、好ましくは「2本の細長いフレキシブルなヒータ」を有すること、が述べられていると理解していることになります。
ここで、Aさんの訳を見て「ちょっと変だな」と思いませんか?まず1本のヒータに番号が2つ付いているのが変です(「少なくとも1本」なので番号が複数あってもおかしくない、と思うかもしれませんが、それではなぜ2つの番号なのか説明できますか?)。
また、好ましい態様が2本のヒータであるのに、それらに番号が付されていないのは変です。
また、好ましい態様が2本のヒータであるのに、それらに番号が付されていないのは変です。
このように、機械分野のものでは、部材番号に注意して合理的に読めるかどうか見ていけば誤訳が見つかります。もちろん、一番大事なことは、訳者もチェッカーも図面を参照して部材番号を追いながら発明を理解していくことであることは論を待つまでもありません。
なお、Aさんの訳は、英文を後から訳していったことに起因するとも考えられます。いわゆる「後からの訳し上げ」には上のような誤訳の危険がありますので注意しましょう。