2011年5月 翻訳のヒント(英訳) 同じ「含む」でも
特許のクレームや明細書においては物質の特定成分含有量や不純物量などが規定されることがしばしばあります。
日本語では有益な成分であれ、不要な成分であれ「~を含む」と表現されることが多いのですが、英訳文を英語として読んだとき気をつけたいニュアンスの問題を次の例で説明します。
半導体産業ではシリコンの純度が重要です。不純物ボロンをできるだけ低減させた発明において、例えば「不純物としてボロンを0.5ppm以下含むシリコンウエーハ」の英訳としては、
(1) a silicon wafer containing, as an impurity, boron in an amount 0.5 ppm or lower
(2) a silicon wafer having a boron impurity content of 0.5 ppm or lower
が考えられます。(1)の訳を客観的に見ると、少量ではあってもボロンを含むという意味になり、場合によっては積極的に少量のボロンを含むとも解釈されかねません。
(2)の訳でしたら、不純物としてのボロンの含有量が少ないという意図がはっきりします。高純度に視点をあてれば(2)の訳が好ましいことがわかるでしょう。
今話題のレアーメタルの一種であるニオブを得るために用いられるコルンブ石はニオブ含有量が高いことが利点となります。
この場合も、例えば「ニオブを70%以上含むコルンブ石」の英訳としては、
(1) a columbite mineral containing niobium in an amount of 70% or higher
(2) a columbite mineral having a niobium content of 70% or higher
が考えられます。1の高純度シリコンの場合とは異なり、(1)の訳も(2)の訳も積極的にニオブを含むと解釈されて問題はありません。
さて、1の場合は原文の日本語表現にも問題があります。「不純物としてボロンを0.5ppm以下含む」より、「不純物としてのボロンの含有量が0.5ppm以下である」、「不純物としてボロンを0.5ppm以下しか含まない」等の表現を和訳の際は心がけたいものです。