翻訳のヒント

2011年1月 酸化鉄

年末のお掃除でサビを落した方も多いと思いますが、今回はサビの正体である酸化鉄を例にとり、日本語ではあえて表出しない「種や数の概念」を出して化学物質を英訳する際に注意すべき点をまとめました。

酸化鉄は金属鉄の酸化物ですが、酸化状態(酸化数)によりFeO、Fe2O3、Fe3O4等の式で表わされる種々の特定酸化物が存在します。 酸化鉄の英訳としてiron oxide、an iron oxide、iron oxides についてどのような意味を持つのかを説明します。

Iron oxide(無冠詞)

無冠詞の物質名詞としての扱いです。「一般的に云うところの鉄の酸化物」を意味し、酸化数で区別されるべきことまでは意図しないときの表現です。即ち、酸化数を問題にしなければ無冠詞でよいのです。

例:Iron oxide is a chemical compound.
例:Iron oxide is formed when iron is oxidized by air.
(鉄は空気中で酸化されて酸化鉄を生じる。)
An iron oxide(不定冠詞付き)

複数種存在する酸化鉄のうち「ある一種の酸化鉄」(a certainの意味)を意味します。

例:An iron oxide is further oxidized to form another iron oxide having a higher oxidation number.
(ある酸化鉄は更に酸化されて高酸化数の他の酸化鉄となる。)
Iron oxides(複数形)

酸化鉄には複数種が存在し、それらのうちの「複数種の酸化鉄」を意味します。

例:Iron oxides have been studied in terms of their structures.
(酸化鉄類の構造が研究されてきた。)

特許のクレームで「酸化鉄を含む組成物」等を訳す場合、不定冠詞付きを使えば一種又はそれ以上の酸化鉄を、複数形を使えば複数の酸化鉄を請求することになりますので、明細書全体から判断する必要があります。
但し明細書に『本明細書において「酸化鉄」とはFeO、Fe2O3、Fe3O4等の種々の酸化物を意味する』のような定義があれば、定義中の「酸化鉄」を単にiron oxideと訳すだけで、それ以降無冠詞で使うこともできます。

酸化鉄以外にもカルボン酸(carboxylic acid、a carboxylic acid、carboxylic acids)、ポリエステル(polyester、a polyester、polyesters)、その他のポリマー、等多くの物質についても上の説明が当てはまります。


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