2010年6月 明細書で使用される語「説明」の英語表現
今月は日本の出願用特許明細書に頻出する用語「説明」の訳語について解説します。
この語は明細書中では次の表現でよく用いられています。
b. 発明の詳細な説明
c. 図面の簡単な説明
英文明細書についてあまり学ぶ機会のない日本の多くの翻訳者はこの日本語「説明」をexplainやexplanation と訳します。確かに和英辞書で「説明」を引くとまずこれらの語が出てきてdescribeやdescription はありません。よって一見、何ら間違っていないと思うかもしれませんが実は上のa., b., c.,の表現にexplainやexplanationを使うことはありません(韓国語や中国語などの非英語明細書から英訳されたものには時として見られますが)。
「説明」にはdescribe、descriptionを使います。上のa., b., c.は次のようになります。
b. Detailed Description of the Invention
c. Brief Description of the Drawings
又は図面が単数のときは
c'. Brief Description of the Sole Drawing
explainやexplanationを使用してもそれで発明の権利範囲が影響されるわけではありませんが、英語のexplainという語の成り立ちを考えてみれば上の状況で使用するのはおかしいということがわかるでしょう。
"ex-"は強意の接頭語です(「外方へ」という意味もあります)。"plain"は「平らにする」という意味で、「明らかにする」「明白なものにする」ということになります。
一方、"describe" の "de-" は「下に」、"scribe" は「(文字を)書く」という意味です。
特許明細書は、抽象的な発明思想やその具体化である装置・機械(これらは図面で表される)、化合物(化学式で表される)等、いわゆる「発明」を文字で「文書化」するものです。機械の発明はその模型を提出することが要求されていた国・時代もありましたが、今はどこでも書面主義です。
ここで"explain"という語を考えて見ますと、これは「口頭で理由を申し述べる、言い訳する」、というイメージが強い語です。
以上から、客観的に発明を記述するべき明細書における「説明」の訳語としてはdescribe, description が適切であることがおわかりになると思います。