翻訳のヒント

2010年5月 日本語の発想に引きずられず、動詞の用法を確認しよう

英語と日本語とでは文法構造が異なるので、日本語における主語・述語の関係が英語ではそのままあてはまらないことは翻訳者なら知っているはずですが、うっかり日本語の発想にとらわれて英訳してしまうこともあります。化学特許分野でよくありがちな誤りを幾つか挙げてみます。

動詞 coat

保護コーティング液や機能性膜を形成するための溶液を基体に塗布する際に「この溶液を該金属基板にコーティングして、・・・」のような表現がよくでてきますが、日本語の語順どおりに

"the solution is coated onto the metallic substrate"

と訳されていることがよくあります。しかし、これは誤りです。辞書を見れば明らかなように、動詞 coatの目的語はコートされる基体であり、コーティング材料は前置詞withの後に置かれます。正しくは、

"the metallic substrate is coated with the solution"

となります。 もし最初の英文構造を生かすのであれば、別な動詞applyを使い、

"the solution is applied to the metallic substrate"

とすれば可能です。

動詞 irradiate、dope

動詞 coatと同様の構造です。よく見られる誤りはとしては、

"a UV ray is irradiated to the substrate"
(基板に紫外線を照射する)

"boron is doped to the GaN semiconductor layer"
(ホウ素をGaN半導体層にドープする)

等があります。それぞれ正しくは、

"the substrate is irradiated with a UV ray"

"the GaN semiconductor layer is doped with boron"

となります。

この種の誤りは日頃から英語ネイティブが書いた論文や特許明細書に触れる機会を増やすことで少なくすることができます。また、自分の書いた英文をネイティブにチェックしてもらうことも役に立ちます。


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