2009年12月 「~系」を伴う化学物質名
特許明細書に記載される物質名には、「III族窒化物系半導体」、「シリコーン系樹脂」、「鉄系形状記憶合金」など、物質名に「系」を伴うことが少なくありません。 明細書において「系」を付ける理由は、そのことにより「系」という語の前に置かれている物質名が表わす物質のみからなるものに限られないことを示そうとするためです。 言い換えれば限定的に解釈されることを避け、広い権利範囲を確実にしようとする表現です。この「系」は機械的には訳せず、定訳はありません。 多くの場合、特許明細書には当該発明に係る物質の定義や例が記載されており、実施例には具体的な例が挙げられています。 従って、明細書中で「系」が何を意味するかを訳者がよく理解した上で適訳を決めるべきです。「系」の訳例を幾つか挙げてみましょう。
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"-based"
主成分がその物質であり、更に他成分を主成分よりも少ない量で含むことも許容される場合に適切な表現です。例えば「III族窒化物系半導体」がIII族窒化物半導体以外の半導体物質や添加剤等を含む場合は"Group III nitride-based semiconductor"と訳出でき、Pb以外の微量金属を含む「PbTiO3系酸化物」は"PbTiO3-based oxide"とすることができます。
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"-containing"
その物質が特異成分として含まれている場合や、含有量に限定のない場合に適切な表現です。例えば「ハロゲン系樹脂」がハロゲンを難燃性元素として含み、ハロゲンが主成分ではない場合(実際は炭化水素が主体)"halogen-containing resin"とすることができます。この場合"halogen-based resin"ではおかしいことになります。
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"-type"
その物質名称が、幾つかの分類されたタイプの一種である場合に適切な表現です。「ペロブスカイト系酸化物」の「ペロブスカイト」は、結晶構造タイプの一種を表しますので"perovskite-type oxide"となります。
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形容詞化する
性質を意味する「系」の場合、対応する物質の英語に形容詞が存在するならばその形容詞が使えます。「フェノール系化合物」は"phenolic compound"、「エチレン系モノマー」は"ethylenic monomer"と訳せます。
この他にも"-like"と訳す場合や"system"を意味することもあり得ますし、「系」を訳さなくてもよい場合もあり得ます。いくら「系」とはいえ、「新幹線500系のぞみ」などを除き"-series"はまずありません。
いずれにせよ、「系」が出てきたら明細書の記載や技術内容に基づいて常に注意を払い、多くの可能性を考えることが重要です。