2009年11月 "anticipation"
米国出願後、審査過程で審査官から拒絶理由通知を受け、これを和訳する必要がでてくる場合があります。
この拒絶理由通知にはanticipateやanticipated by ... 等の表現が良く見られますが翻訳者の皆さんはこれをどう訳していますか?
例えば次のような文章はどうでしょう?
Claim 1 is rejected under 35 USC 102(b) as being anticipated by Reference X.
英和辞書を引くと、anticipate は「予期する」、「予見する」、「予想する」、「先んずる」などの意味であると記載されています。 Merriam-Webster等、本格的な英英辞書でも大体このような意味しか載っていません。 ですから、これを「請求項1は引例Xによって予見されることにより米国特許法第102条b項によって拒絶される。」と訳す翻訳者が大勢います。 しかし、ここで「予見される」というのはどういうことなのでしょうか?
"anticipation"には、特許分野の法律用語として特別な意味があります。まず手元の"Black's Law Dictionary"を参照してみると、次のように説明されています:
In patent law, an invention is anticipated by prior art when the invention is not new or lacks novelty over that art.
つまり、この語は、「引例からクレーム発明の新規性が否定される」ときに使われるのです。
特許分野専門の英英辞書ではさらに突っ込んで例えば次のように説明されています:
A reference that contains all of the elements of a claim is considered to anticipate that claim.
これを上の例文に即して読み解きますと、「引例Xには請求項1の全ての構成要素(all the elements)が開示されている、よって新規性がない」、という意味になります。或いはこれを言い換えて、「請求項1の全構成要素がこの引例に開示されていることにより新規性がない」、と表現することもできます。
では、現実にはどう訳せばよいのでしょうか?
訳例を次に三種掲げますので参考になさってください。
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請求項1は引例Xから新規性がないとして米国特許法第102条b項によって拒絶される。
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請求項1と同一の内容が先行例Xに開示されていることにより米国特許法第102条b項によって拒絶される。
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請求項1の発明は引例Xの発明と同一発明であるので米国特許法第102条b項によって拒絶される。
なお、訳例3にあるように、日本の実務家は"anticipation"を(日本で言う)「発明の同一性」と解釈しています。