2023年7月 翻訳のヒント(英訳)- 新人の英作文の添削2
今回は、5月に続き、英文翻訳初心者がついやってしまうミスや、間違いとは言えなくても稚拙な表現を紹介したいと思います。
原文:その車は目の前を高速で通り過ぎて行った。
a. The car passed in front of me at high speed. b. The car passed in front of me at a high speed. c. The car passed in front of me at the high speed. |
実は日本人学習者は the をつけて at the high speed とする人が多いのです。日本語には冠詞がありませんので、どうしても冠詞には苦手意識があります。使い方をよく理解しようとせず、単に無視したり、なんでも the をつけておけば英語らしくなるだろうと考えてしまうのも困ったものです。冠詞 a や the も英単語なので、それぞれ意味を持っています。
上の例では、原和文の意味は「通り過ぎた車のスピードはとても速かった」、ということで、特定の速さ(例えば時速100キロなど)を念頭に置いて表現しているわけではありません。よってこのような「漠然とした高速」の場合、いわゆる ”set phrase” (定番表現)の ”at high speed” を使った a. が一番自然な表現です。
かといって、b. が全くダメかというとそんなことはありませんが、何か抜けている感じがします。例えば、「その車は私の弟の遅い車とは対照的にスピードが速かった」というように補足情報がある状況では、
The car passed in front of me at a high speed as opposed to the low speed of my brother’s car. |
のように、”at a high speed” という表現が適当です。
或いは、The car passed in front of me at a high speed of 120 km/h.
のように、特定のスピード(この例では 120 km/h)で通りすぎたことを言う場合に、そのスピードがすぐ口に出てこなくて、at a high speed of , uh, …と口ごもっている感じのようにも受け取れます。なお、speed of の後ろに数値が来る場合には上のように必ず不定冠詞 a が使われます。これは長さや重さなど他の単位でも同様です。
例:have a weight of 25 g / have a length of 2.5 meters
以上のように、ごく簡単な文章でも冠詞で躓いてしまう初心者が多いのは残念です。冠詞についての文法書、学習書はたくさん出ていますので、どれか一つを通読することをお勧めします。また、英文を読むときには冠詞にも注意し、なぜ ”a” なのか、なぜ ”the” なのか、なぜ無冠詞なのか、その冠詞の使い方によってどういう意味を出したいのか、を考える習慣を身に着けましょう。
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