翻訳のヒント[バックナンバー]

2021年11月 翻訳のヒント(和訳) - “other than” と誤訳

 今回は、バイオ・化学分野を和訳するときに翻訳ミスをしてしまいやすい表現に関するヒントです。

 外国から日本特許庁に国内移行するための英文明細書に次のような文章が出てきました。これをあなたならどう考えて訳しますか?

“X1, X2, X3 and X4 may be any combination of substituents, but it is preferred that at least two of these moieties be other than hydrogen or a group linked to the ring through a carbon-carbon bond.”

 ある訳者は次のように訳しました。

「X1、X2、X3 及び X4 は、置換基の任意の組合せであることができるが、これらの部分(基)の内の少なくとも2種は、水素以外、或いは炭素-炭素結合により環に結合した基であることが好ましい。」

 一見すると何も問題ないように見えるかもしれませんが、実は元の英文には落とし穴があり、上の訳はその穴に落ちて誤訳してしまっています。

 それは、原文の ”other than” がどこまでかかっているのか不明確であり、この一文だけではどこまでかの判断が難しいという点です。そこを見逃してよく考えないで訳したため、上の訳になったのですが、実はこの文に続いてつぎの文が記載されていました。

“Preferably, at least two of X1, X2, X3 and X4 are moieties linked to the ring through a carbon-oxygen bond, for example, in the case of X1, OR3, OSO3R3 and OPO3R3R’3.”

 この文を読めば、「炭素-酸素により環に結合した基が2種以上であるのが好ましい」とあるため、”other than” は “hydrogen” だけでなく、”group“にもかかることは明らかです。

 つまり、正しい訳は次のようになります。

(訂正後の訳)「X、X、X及びXは、置換基の任意の組合せであることができるが、これらの部分(基)の内の少なくとも2種は、水素以外、或いは炭素-炭素結合により環に結合した基以外であることが好ましい。」

 最初の訳のようなミスをしないためには、単語の置き換え作業でなく、明細書の内容をしっかりと把握して、一文ごとに論理的・合理的に文同士がつながっているかどうかを考えながら翻訳作業を進めることしかありません。

 また、もし文の解釈や訳に自信が無かったら、早めにその分野がわかる人に相談することが大切です。

 なお、”other than” 、特に ”other than …… or … ”のパターンが出てきたら、そこをマークして、誤訳していないかじっくり検討することもお勧めします。



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