翻訳のヒント[バックナンバー]

2019年10月 翻訳のヒント(英訳) - ドイツ語の音訳を英語にする

 和文明細書中のカタカナ語は全て英語の音訳とは限りません。特に化学や医学の用語にはドイツ語由来のものがあります。このような用語を英訳する際、ドイツ語の綴りを借用する場合と、意味が等価な英語に迂回する場合があります。どちらか一方が正解ということはないのですが、ケースバイケースの対応となります。以下の例を見てみましょう。

1.シャーレ(Schale)

 微生物の培養に使われる平皿のことですが、元来はドイツ語の「(深めの)皿、(平たい)鉢」を指します。特定の文脈であればドイツ語の Schale を借用しても誤解はありませんが、ドイツ語故に "s" を付加した複数形 Schales とはできません。そこで、シャーレの微生物用途への考案者Petri に由来する英語の Petri dishを訳語とすれば、単数にも複数にも対応できます。

2.ナトロンラウゲ(Natronlauge)

 プレッツエルや表面が褐色の硬いパンを焼き上げる前に生地を下処理するための苛性アルカリ溶液です。ナトロンラウゲの実態は水酸化ナトリウム水溶液ですが、あくまで食品用処理材料であるため、sodium hydroxide(化学材料として)や lye(灰汁)では的を射た訳語とは言えません。このように、適切な英語表現にし難い場合にはドイツ語の Natronlauge をそのまま使いましょう。尚、ドイツ語の名詞の先頭は大文字ですが、英文中では小文字のnを用い natronlauge とすることもできます。

3.シャーカステン(Schaukasten)

 シャウカステンともいわれます。ドイツ語の動詞 schauen(見る)と名詞 kasten(箱)の合成名詞で、医療用のX線画像フィルムを見るための、内部に照明を有する箱型装置です(現在はあまり使われませんが)。医学ではお馴染みの用語ですので、ドイツ語の Schaukasten(又は英語様綴りのschaukasten)を明細書でよく見かけます。また、この装置に対する英語の等価表現は X-ray film illuminator、film viewer 等各種存在し、これらもシャーカステンの英訳となり得ます。

 ドイツ語の綴りを使うのか、英語に迂回するのかは、各分野における用語の認知度や文法上の問題で決まるかと思います。いずれにしても、明細書中の任意の箇所でドイツ語に対応する英語、例えば Schaukasten (i.e., film viewer)film viewer (so-called Schaukasten)などと記載し、意味がわかるようにしておけば親切です。更に、ドイツ語以外の非英語のカタカナ語についても同様の対応ができるかと思います。



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