翻訳のヒント[バックナンバー]

2014年10月 番外編:英語は「方言」?! - スカイプレッスンの使い方

 これまでこのコラムは、特許翻訳者や特許翻訳者志望の方など、特許明細書の翻訳業務に携わる方々を対象に、翻訳上のちょっとしたヒントを差し上げてきました。

 今回は番外編として、スカイプオンラインレッスンを翻訳力向上に役立てることを提案したいと思います。

 スカイプを利用する英会話オンラインレッスンはすでに日本国内で150社以上あり、フィリピン人講師とのレッスンは1レッスン100円を切るものまであるようですから、実際に体験なさった方もおいでかもしれません。

 しかし、多くの特許翻訳者は「特許翻訳に英会話は必要ない」、「会話は苦手」、「英語は話せなくても仕事は出来る」と考えているのではないでしょうか?

 もしまだそうお考えでしたら、「ちょっと待ってください」!

 特許明細書は審査官に対する手紙です。審査官に口で説明するように書くのが理想です。頭の中でいろいろ文章をこねくり回しても達意の文章にならないどころか、不自然でわかりにくい文章になりがちです。極端な話、「英単語だけで書かれた日本文」になりかねません。

 そこでスカイプレッスンの登場です。弊社は先月(2014年9月)以来、スカイプによるオンライン会話サービスを提供しています。

 スカイプオンラインレッスンで英語ネイティブ講師と最近の国内外のニュースなど様々な事柄について雑談(フリートーク)したり、ディスカッションしたりすることで、自然な英語表現が身につき、書く際にも英語の発想を持つことができます。

 弊社のサービス、ALI Online Lessons (https://online.alinet.jp/) は開始からまだ一ヶ月なので100名程度の方々に利用いただいているだけですが、このコラムの読者の方々にはぜひ一度、次の使い方で利用してみて頂きたいのです。

 まず、興味ある分野の面白そうな本(勿論英語ネイティブが英語で書いた本です!)を1冊選び、とりあえずさっと1回読んでみます。きっと、よく意味の良くわからない表現やスラング、イディオムがあったり、確認したい文化的背景があったりすることと思います。でも「面白そうだ」、「じっくり読んでみたい」と思ったら ALI Online Lessons の出番です。

 ALI Online Lessons で講師を選び、一緒にその本を読んでもらってください。つまり、本を読む上での "buddy" になってもらうのです。"Tutor" として御願いしてもいいのですが、指導を受けるというより読書仲間として楽しく意見交換しながら本の世界で遊んでください。

 本は自分の興味のある分野であれば、あまりに専門的過ぎるものでない限りどのようなものでも結構です。ノンフィクションとしては、伝記、自伝、歴史、旅行記、探検もの、自然・環境、動物関係など、フィクションとしては、探偵もの、スパイもの、スリラーもの、などがいいでしょう。但し政治や宗教方面のものは避けるのが賢明です。

 次にいくつかお勧めの本を上げておきます。

1.長い読み物はつらいので気軽に読める短いものを、という方には:
    Roald Dahl の短編集 "KISS KISS" のなかから "The Landlady"など。
    この短編集はペンギンブックスからペーパーバック版がでています。

2.日本の人物・歴史に興味ある方には:
    Heart of a SAMURAI(written by Margi Preus)
    アメリカの児童書作家による、ジョン万次郎についての伝記小説です。

3.地理や昔の冒険に興味ある方には:
    Skeletons on the Zahara - A true story of survival - by Dean King
    19世紀の初頭、モロッコ沖で難破し土着部族の奴隷にされた船長達が帰国の希望を失わず、助け合いつつ灼熱のサハラをさまようノンフィクション

4.A Street Cat Named Bob (James Bowen)
    麻薬中毒だったロンドンのホームレスが偶然、賢い野良猫とめぐり合い、この猫を引き取って世話をすることで人間性を取り戻し、中毒から脱し、社会に適応するようになるまで。猫好きな方に。

5.Kitchen (by Yoshimoto Banana)
    日本人なら恐らくご存知の吉本ばななの小説。普通の日本人の普通の生活、祖母の死、日本の生活、習慣、考え方について外国人と話してみたい方に。

 以上、特許とは全く関係ありませんが、読書を通し、感想や解釈をシェアしあうことによって異文化の理解が進み、加えて英語表現に対する感覚が体の奥に蓄積していきます。

 そして "buddy" と1つの作品を味わいつつ、共に泣き、笑って作品の最後までたどり着くことができたら、もう英語はあなたのなかの「方言」です。訛っているかもしれませんが、思想や気持ちを自分の英語で伝えられるようになっているでしょう。

 そうなったら特許明細書を訳すときも「言いたいことを英語化する」ことに注力するようになり、自信をもって自分の英文を出すことができます。

 Good luck!

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