翻訳のヒント

2010年4月 米国特許の特許期間の表示(2)

今月は先月に引き続き、米国特許のフロント・ページ中に見られる特許期間の延長に関する記載についてお話します。

先月、米国特許明細書のフロント・ページの左カラム、譲受人名の下の、次のNotice について解説しました。

(*) Notice: Subject to any disclaimer, the term of this patent is extended or adjusted under 35 U.S.C. 154(b) by 0 days.

また、先回、このフレーズの中の "disclaimer"は「権利放棄」のことであるとお話しましたが、「権利放棄」といってもこれだけでは「何の権利?」という疑問をお持ちの方も出てくると思います。

上の文脈の中でdisclaimerとは「特許期間」(権利として与えられるものです!)の一部分又は全部の放棄を意味します。このdisclaimer に terminal がついた、"terminal disclaimer"とは、特許期間の最後の方の一部分の期間の放棄を意味します。

それではどういうときに「本来の特許期間」の末端、即ちterminal partがterminal disclaimerによって放棄されるのでしょうか?

それは、『この発明の出願の審査過程で、特許査定(allowance)を得るため等の目的で、出願人が "terminal disclaimer" を提出した、或いは提出しなければならなかった場合』です。

これが起こるのは、例えば、同一出願人の出願にかかる先の出願における請求項の内容から本願の請求項の内容が自明(obvious)である、という拒絶理由を審査官に出された場合です。これはいわゆる「自明型のダブルパテント(二重特許)」を禁ずる拒絶理由といわれるものです。

より具体的には、例えば本願が、親出願からの継続出願や一部継続出願、分割出願(以下、まとめて子出願という)であった場合、親出願の特許期間よりも子出願の特許期間が遅く終わることが許されるとすれば、子出願を行うだけで実質的に特許権の存続期間が延長されてしまうことになり不合理です。よって、上のような拒絶理由が出された場合、これに抗して後願に特許を成立させるためには、出願人は、後願に係る特許の権利期間の終末部分を「権利放棄」して先願特許の権利消滅日と揃える手続きをとることが許されています。これを "terminal disclaimer"といいます。

それでは、今お手元に米国特許明細書があったとして、その特許の存続期間がterminal disclaimer されているかどうかはどこでわかるのでしょうか?

実はこれはそんなに簡単ではありません。通常はフロント頁の右上の、特許番号が印字されているすぐ下のDate of Patent(特許発行日)の日付けの後にアスタリスクが付されます。しかし、これがない場合もありますので要注意です。アスタリスクがなく、フロント頁のどこかにターミナル・ディスクレーマーが提出されている旨、記載されている場合もありますが、いずれにしても、正確には審査経過書類(file wrapperとか file historyといいます)を調べないとわかりません。

以上、今回はterminal disclaimerを簡単にご説明しましたが、実は、米国特許庁が特許期間の延長の日数を計算するに当たって、terminal disclaimerが提出されていたかどうかは調べません。全く独立して、単に形式的に出願人による書類提出日、特許庁からの通知発送日を抽出して計算しています。是非、この点にもご注意下さい。


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