翻訳のヒント[バックナンバー]

2009年10月 化合物の通称

化学物質の名称には非常に長いものもありますが、それ程ではなくてもラボでは「酢エチ(酢酸エチル)」「エヌヘキ(n-ヘキサン)」等の略語が飛び交います。薬や化粧品の成分として長い名称を商品パッケージに記載するにはスペースの制約もあるため、正式名でなく通称がよく使われます。日本薬局方で認められた通称もあります。例を紹介しましょう。

  1. カルメロース(carmellose)

    カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)の略称です。日本薬局方にも記載されています。

  2. ポビドン(povidone)

    ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)の略称です。これとヨウ素の複合体は、うがい薬で有名なポビドンヨードとして日本薬局方にもあります。

他にも、ヒプロメロース(hypromellose)(正式名:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropylmethylcellulose))、パラベン(paraben)(正式名:パラヒドロキシベンゾエート(p-hydroxybenzoate))、エデト酸(edetic acid)(正式名:エチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid))等が挙げられます。

特許法(日本)によれば、明細書は、「その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(第36条4項)とされています。これは、言いかえると、当業者が理解でき、実施できるような記述の程度で良い、ということになります。

よって、明細書には上のような通称がよく見られ、当業者ではない翻訳者を戸惑せています。これらの英語の綴りを確認する際、化学分野の辞書や事典、用語集等を探しても見つからない場合には、インターネットや薬品・化粧品関連の用語集を参照すると良いでしょう。時々、発明者の実験室でのみ通用するような通称が記載されることもありますので、そういう場合には想像力を働かせることも大切です。


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